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示談金の通知を、破り捨てた日

2026.10.18
20の記憶 Vol.7 示談金の通知を、破り捨てた日|Bar Little Happiness 谷本美香

Thanks 20th Anniversary 20の記憶 Vol.7

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「それでもダメなら、諦めます」

大家さんの口座を、半ば強引に聞き出して、家賃1年分を、満額、前払いしました。

20代前半。

どうしても、この場所がよかったんです。

駐車場の、小さなカフェバー

リトハピの始まりは、駐車場の一角を間借りした、小さなカフェバーでした。

そこで過ごしたのは、1年半くらい。

ある日、その駐車場に、たまたまテレビの取材が入りました。

クルーの方が面白がってくれて、ほんの20秒ほど、私が映ったんです。

そこから、知らないお店からの紹介で、お客様が、一気に押し寄せるようになりました。

駐車場の待合スペースを兼ねた小さなカフェバーは、連日、満席。

……ところが。

今度はそれが、駐車場をご利用のお客様からのクレームになりました。

大家さんからは、「出ていってほしい」と。

正直、動きたくありませんでした。

お店は流行っていて、ちゃんと儲かっていたんです。

融資が、受けられない

移転すると決めて、初めて知ったことがあります。

何も、わかっていませんでした。

移転先を探しても、若い女がひとり、舐められて、まともな物件はなかなか紹介してもらえない。

今の場所は1階で、何店舗も競合していました。それでも、どうしてもここがよかった。

決め手になったのは、二つ。

前の店が繁盛していたことを、管理会社さんがたまたま知っていて、推してくださったこと。

そして、冒頭の、あの前払いです。

移転費用は、全額、借入でした。

でも、私ひとりの信用力では、どこの金融機関も、お金を貸してくれませんでした。

実は、そのときまで、両親には、お店をやっていることを言っていませんでした。

保証人をお願いするために、はじめて打ち明けたんです。

「美香がやるなら、何か勝機があるんだろう」

父はそんなようなことを言って、何も聞かずに、保証人の欄にサインをしてくれました。

母は、ずっと心配して、ダメだと言い続けていました。

あれから、20年。

20周年の節目に、両親へ、豪華客船の旅をプレゼントしました。

何も聞かずにサインをしてくれた父へのプレゼント。

内装業者に、飛ばれた

ようやく決まった新しいお店。

ところが、内装業者さんが、最初と話が違うことを言い出しました。

意見をしたら、いなくなってしまったんです。

たぶん、舐められていたんでしょうね。

オープンは、まるまる1か月ずれました。

野晒しで放置され、途方にくれていました。

インターネットに情報もそれほどない、SNSもない時代です。

お客様の連絡先もわからない。お金の計画も、大幅に狂う。

外に大きな張り紙を出すことしか、できませんでした。

あとから、相手の弁護士さんから示談金の交渉の通知が届きました。

その金額が、あまりに少額で。

悔しくて、ビリビリに破いて、捨てました。

今思えば、もらっておけばよかったんですけど(笑)。

悔しくて、怖かった

本当は、悔しいのと同じくらい、怖かった。

どうしよう、と。

でも、この経験があったから、私は変わりました。

どんなにお金がかかっても、弁護士さんに入ってもらう。

約束は、きちんと書面に起こす。

何かを決めるときは、法律上どうなるのかを前提に考えてから、動く。

図らずも、私は法学部の出身です。

……アホウガクブ、ですけど(笑)。

それでも、大学で勉強したことが、思いがけず、とても役に立ちました。

民法の、基本的な考え方。

法律に則ったとき、何が正義となるのか。

その物差しは、この内装の件だけでなく、人を雇用するときにも、何かトラブルが起きたときにも、ずっと私を支えてくれました。

ただ、なまじ法律をかじっていたぶん、何もかもをホワイトに整えすぎて、自分が苦しくなっていたことも全てが終わってから気づきました。

あとから気づいたのですが、世の中は、グレーなことばかり。

何もかもを、法律どおりきれいに守れているのは、上場企業くらいなのかもしれません。

夕方、店を開けようとしたら

スタッフにも、本当に苦労しました。

夕方、お店を開けようとしたら、スタッフが床で寝ていたことがあります。

近くの警察の方から、「おたくのスタッフが……」と、電話がかかってくるのは、よくあることでした。

警察へ、病院へ、迎えに行く。

あまりに、自分が生きてきた世界とは違う価値観の人たちでした。

でも、この経験が、きっかけになりました。

よく知らない誰かの紹介で人を雇うのをやめて、ハローワークや求人媒体で募集する。

採用の条件を、ひとつずつ整えていく。

リトハピが「組織」に向かって歩きはじめたのは、ここからでした。

最終的には、採用を大卒限定にしました。

高学歴な方が、応募してくださるようになりました。

全ての経験が、無駄ではなかった

テレビの20秒も、追い出されたことも。

家賃1年分の前払いも、破り捨てた示談金の通知も。

警察からの電話も、床で寝ていたスタッフも。

あの頃の私は、ただ必死でした。

悔しくて、怖くて、どうしようと思いながら、それでも毎晩、お店を開けていた。

「それでもダメなら、諦めます」

そう言って手に入れた、この場所。

あれから20年近く経った今も、私は、同じ場所のカウンターに立っています。

扉を開けて入ってきてくださるお客様の顔を見るたびに、ときどき、あの頃の自分を思い出します。

震えながら家賃を振り込んだ、20代前半の私。

大丈夫。

全ての経験は、無駄ではなかったよ。

Thanks 20th Anniversary 20の記憶 Vol.7


「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」

出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。


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バー経営の裏側

【この記事を書いた人】

谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社Little.m 代表取締役/オーナーバーテンダー

広島・流川で2006年からウイスキーとラムの専門店「Bar Little Happiness」を営む。国内外の蒸溜所を訪ね、造り手の話をコラム「ウイスキーとラムの手帖」に綴っている。広島市優良技能者。

「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」

【お店の情報】📍 Bar Little Happiness

広島市中区流川町5-14 Rolling流川 1F
月〜土 19:00〜24:30/日 19:00〜24:00(店主が蒸溜所へ旅に出る日はお休み)
ノーチャージ・予約不要

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