傲っていた頃の、恥ずかしい記憶
2026.5.13
「Thanks 20th Anniversary 20の記憶 Vol.5
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もう、何年前のことだろう。
ある日、リトハピに一本の電話がかかってきました。
『予約を、お願いしたいんです』
ろれつが、回っていないように聞こえました。
その頃、毎日満席で調子に乗っていました。
客層を整えることに必死で、
何か、お断りに近いような言葉をお返ししたと記憶しています。
電話の向こうの方は、それ以上何もおっしゃらず電話は切れました。
その同じ日の夜。
その方は、リトハピにいらっしゃいました。
扉を開けて、ゆっくり入ってこられたその瞬間。
私は、息を呑みました。
何度か、お店にいらしてくださっていたお客様でした。
ご病気をされたのだと伺いました。
言葉が思うように出なくなった、と。
そして、ゆっくり、ゆっくり、こうおっしゃったのです。
『元気にやっているかなって』
『ここに来るのが楽しみで』
『人づてに、頑張っているのを聞いていたよ』
『リハビリの、元気をもらっていた』
SNSなど、ない時代でした。
インターネットで、何かを検索するいう習慣もまだなかった頃。
それでも、その方は私のお店を覚えていてくださって、
人づてに聞いて、リハビリの励みにしてくださっていた。
あの時、電話でろれつが回らないように聞こえたのは、お酒のせいではなかったのです。
私は、その場で恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになりました。
『客層を、整える』という大義名分の裏に隠れていた、自分の傲りに深く恥じました。
その日、お店は鬼のような満席でした。
恥ずかしさと、気まずさで、そのお客様と深く会話をすることができませんでした。
『お会いできて嬉しいです』
それだけ、口にしたように思います。
何を、お伝えすればよかったのか当時の私にはわかりませんでした。
20代前半。幼なすぎたのです。
お帰りの時、お店の外までお見送りしました。
大きくお辞儀をして、握手をしました。
言葉が出てこなくて、
『ありがとうございました』
とだけ言いました。
本当は、お伝えしたいこと、お聞きしたいことたくさんあったはずなのに。
あれから、そのお客様とは、お会いしていません。
傲ってしまいそうになる時。
勘違いをしそうになる時。
いつもあのお客様のことを思い出します。
ゆっくり、ゆっくり、言葉を、紡いでくださったあの姿。
きっと、あの頃の私はあのお客様だけでなく、
気づかないうちに、同じようなことをたくさんの方にしてしまっていたのだと思います。
そして、今も気づかずに誰かに同じことをしているかもしれません。
あの日の恥ずかしさは、20年近く経った今も、消えません。
絶対に忘れないでいようと思っています。
あの恥ずかしさが、今の私の足元を支えてくれているから。
Thanks 20th Anniversary 20の記憶 Vol.5
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
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【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社Little.m 代表取締役/オーナーバーテンダー
広島・流川で2006年からウイスキーとラムの専門店「Bar Little Happiness」を営む。国内外の蒸溜所を訪ね、造り手の話をコラム「ウイスキーとラムの手帖」に綴っている。広島市優良技能者。
「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
【お店の情報】📍 Bar Little Happiness
広島市中区流川町5-14 Rolling流川 1F
月〜土 19:00〜24:30/日 19:00〜24:00(店主が蒸溜所へ旅に出る日はお休み)
ノーチャージ・予約不要
🛒 遠方の方はオンラインショップからもお求めいただけます。