最初の一杯は、恩師の娘さんへ|小諸蒸留所 Celebration Day 体験記
2026.11.07
2026年11月6日。長野県の小諸蒸留所で、初めてのシングルモルトウイスキー「KOMORO ORIGIN」の誕生を祝うCelebration Dayが開催されました。
この日、私が何よりも感動した場面があります。
イアン・チャンさんが、記念すべき最初の一杯を贈った相手。
それは、かつての恩師、故ジム・スワン博士の娘、キャロラインさんでした。
ウイスキー造りを教えてくれた大切な人は、もうこの場にはいません。
その娘さんに、新たな土地で造り上げた最初のウイスキーを手渡す。
なんて素敵なんだろう……
その光景を見て、胸がいっぱいになりました。
この日、私が感じたのは、一本のウイスキーが誕生するまでに積み重ねられてきた、たくさんの人たちの想いや繋がりでした。

どうしても立ち会いたかった日
この日のチケットは、絶対に取りたいと思っていました。
発売日にはパソコンの前に張り付いて待機!笑
人数が限られていたこともあり、チケットは10分ほどで完売していました。
なんとか手にできた貴重な一席。
広島から小諸へ向かいました。

当日はバスでトークセッションの会場となる温泉施設に到着。


かなり早く着いたので、周辺の写真でも撮ろうかなと外へ出てみると……。
あれ?
車の中にいるのは、澁谷さん!?
目が合って、お互いに「あっ!」となりました(笑)。
澁谷さんは、以前イアンさんと一緒に、広島のBar Little Happinessへ来てくださった方です。
実は今回、小諸へ行くことは、お二人には伝えていませんでした。
サプライズでお祝いに来たかったからです。
それなのに、まさか始まる前に見つかってしまうとは!
ファーストリリースの直前。
きっと考えることも、やらなければならないことも、山ほどあったはずです。
そんな大切なときに、私なんかと偶然会ってしまって、なんだか申し訳ないような……。
でも、久しぶりにお会いできて嬉しかったです。
すぐに気づいてくださった嬉しさ
トークセッションが始まる前、会場の外ではイアンさんが参加者の皆さんにご挨拶をされていました。

私に気づくと、すぐに声をかけてくださったんです。
来てくれて嬉しい、と迎えてくださって。
「実はサプライズで来たんです!」
そうお伝えすると、サプライズをとても喜んでくださいました。
すぐに気づいて声をかけてくださったことが、本当に嬉しかった💛
今日はイアンさんにとって、人生の大切な節目になる日。
そんな日に、こうして迎えていただけたことが、とても幸せでした。
ジム・スワン博士を知る三人が語った、小諸までの道のり
会場では、まず地元の皆さんによる力強い太鼓の演奏がありました。
最後は会場の皆さんで三三七拍子!


お祝いの日らしい、華やかな始まりでした。
続いて、小諸蒸留所のエディ・ラドローさんの進行でトークセッションが始まりました。
登壇されたのは、イアンさん、ウイスキー評論家のチャールズ・マクリーンさん、そしてジム・スワン博士の長女、キャロラインさん。
この顔ぶれだけでも、イアンさんにとって特別な意味を持つ一日なのだと感じます。

イアンさんは、台湾のカバランを離れ、日本の小諸へ来た理由についてお話しされました。
その一つが、冷涼な土地で、長期熟成に向いたウイスキーを造りたいという想い。
カバランで素晴らしいウイスキーを造り上げたイアンさんが、今度は日本で、またゼロから挑戦する。
しかも、最初のウイスキーがどんなふうに育つのかは、初めから分からない。
2024年の初め頃には、熟成がどう進むのか、毎日緊張していたそうです。
子どもが成長していくことは分かっていても、どんな姿になるかは分からない。
そんな例えが心に残りました。
その後、小諸の気候や水、さまざまな樽の中で育つ原酒を見ながら、想像していた以上に良い方向へ進んでいると感じられたそうです。
そして、KOMORO ORIGINについても、イアンさんは率直にお話しされました。
まだ若いウイスキーだということを前提に、その品質や可能性を感じてほしい、と。
自分たちが目指す方向へ、着実に進んでいるという手応えを感じていらっしゃるようでした。
一方、チャールズさんは、この若さでこの出来は素晴らしい、と高く評価していました。



お祝いの場であっても、今のウイスキーを冷静に見つめ、その先を考えている。
私は、そんなイアンさんの造り手としての姿勢がとても印象的でした。
恩師から受け継いだもの
トークセッションでは、何度もジム・スワン博士のお名前が登場しました。
博士は、イアンさんに長年にわたってウイスキー造りを教えてきた方です。
最初の5年間は蒸留や発酵など製造の現場を経験し、そのあとでブレンディングを学んだそうです。
また、博士は答えをすぐに教えるのではなく、自分で考え、答えを見つけられるように導く人だったと、イアンさんは振り返っていました。
キャロラインさんからは、博士の家庭での姿も紹介されました。
子どもたちとの旅行先が、海ではなくオークの森だったり。
家のキッチンにたくさんのグラスが並び、子どもたちも香りを嗅いでいたり。
世界的なウイスキーの科学者として知られる博士にも、家族から見たお父さんの顔があるんですね。
そして、キャロラインさんがイアンさんについて語った言葉が、とても心に残っています。
「教え子が、今度は師になる」
博士から教わったことを、今度はイアンさんが次の世代へ伝えていく。
ウイスキー造りの技術だけでなく、学ぶ姿勢や考え方まで受け継がれていくのだと思いました。
もう一つ、素敵だと思ったお話があります。
イアンさんは、今回チャールズさんをお招きした理由についてもお話しされました。
イアンさんが台湾でカバランをゼロから立ち上げたときにも、チャールズさんはその誕生を祝って駆けつけ、最初期のゲストスピーカーとして登壇してくれたそうです。
そして今回、日本で二度目のゼロからの挑戦。
その大切な節目にも、また立ち会ってほしかったのだと。
場所が変わっても、人との繋がりが続いていく。
私は、こういうお話が大好きです。
島岡社長が迎えた、はじまりの日
トークセッションのあと、バスで小諸蒸留所へ移動しました。

そして、ファーストリリースを祝う「KOMORO KANPAI」のセレモニーが始まりました。

そして、私の心に残ったのは、小諸蒸留所の島岡社長の姿でした。

私は、島岡社長のことを個人的には全く知りません。
これまでYouTubeなどで拝見する限り、とてもクールで、ビジネスに対して冷静な経営者という印象を持っていました。
けれど、この日の島岡社長は、私にはどこか感極まっているように見えました。
小諸という土地に蒸留所を造ると決め、イアンさんを迎え、まだ一本のウイスキーも完成していない事業を立ち上げる。
その決断から今日まで、どれほど大きな挑戦があったのでしょう。
先ほどのトークセッションで、チャールズさんが話されていたことを思い出しました。
新しく蒸留所を造ると聞いたら、最初に「やめておけ」と言うのだそうです。
情熱だけでは足りない。蒸留所を建て、ウイスキーができあがるまで持ちこたえる資金が要る。そして何より難しいのは、できたウイスキーを売ることだ、と。
世界中の蒸留所を見てきた方の言葉だからこそ、その重みを感じました。
もちろん、私には島岡社長が歩んでこられた道のりのすべてを知ることはできません。
でも、これほど大きな構想を実現するまでには、きっと想像もできないほどの決断や苦労があったのだと思います。
そして、ついに迎えたファーストリリースの日。
島岡社長は、支えてくれた方々や地域の皆さん、そして一緒に歩んできたスタッフの方々への感謝を、何度も口にされていました。
私はその姿が、とても素敵だなと思いました。
これまで小諸蒸留所を訪れて感じていた、スタッフの皆さんの素晴らしさや、蒸留所全体の洗練された雰囲気。
その背景にあるものが、少し分かったような気がしました。
大きな未来を描き、そこに向かって人を集め、ともに歩んでいく。
この日、島岡社長の姿を拝見して、その大きな挑戦と、ここまで歩んでこられた道のりに、改めて深い敬意を感じました。
そして、島岡社長がご自身の大切な言葉として紹介されたのが、
「最高の時は、まだこれから(The best is yet to come)」
さらに、いつの日か「あの日、あの場所にいてよかった」と思っていただけるように、これからも歩み続ける、とお話しされました。
これほどの挑戦を実現し、ようやく迎えたファーストリリースの日。
その日に聞くこの言葉は、また違った響きをもって胸に届きました。
希望を胸に。そして、最初の一杯を恩師の娘さんへ
続いて、イアンさんのご挨拶です。
イアンさんは、映画『ショーシャンクの空に』の「希望」についての言葉を引用されました。
2020年にカバランを離れたとき、次の挑戦へ進む支えになったのは希望だった、と。
蒸留所を造りたい。
そして、最初のウイスキーを世に送り出したい。
一つの希望が実現すると、またその先に新しい希望が生まれていく。
この日のイアンさんの言葉には、そんな未来へ向かう姿勢が表れているように感じました。
島岡社長が話された「The best is yet to come」という言葉も、イアンさんの挨拶に登場しました。
お二人が同じ言葉を口にされていたことが、私にはとても印象的でした。
そして、いよいよ記念すべき最初の一杯。

イアンさんがグラスを贈った相手は、ジム・スワン博士の娘、キャロラインさんでした。

私は、その光景を見て、なんて素敵なんだろうと思いました。
イアンさんが恩師から受け継いだもの。
カバランから小諸へと続いてきた挑戦。
そして、その最初の成果を博士の娘さんへ贈る。
私には、キャロラインさんに贈る一杯であると同時に、どこかジム・スワン博士にも届けているように感じられました。
もちろん、イアンさんがその瞬間に何を思っていらしたのか、私には分かりません。
でも、その振る舞いから、人とのご縁や受け継いできたものへの敬意が伝わってくるようでした。
かつてお父様とイアンさんが語り合っていたアイデアが、こうして形になった。キャロラインさんも、そんなお話をされていました。
博士からイアンさんへ。
そして、イアンさんから次の世代へ。
ウイスキーを通して、たくさんの想いが繋がっていく。
私は、そんな瞬間に立ち会えたことが、本当に幸せでした。
その後、会場全体でカウントダウン!
「3、2、1!」
皆さんで、KOMORO ORIGINの誕生をお祝いしました。

小諸蒸留所を支える、もう一つの力
この一日を通して、もう一人、心に残った方がいます。
島岡良衣さんです。
良衣さんは、それまで10年間続けてきたご自身の会社を閉じ、島岡社長の夢を実現するため、小諸蒸留所の事業に本格的に携わることを決められたそうです。
この日も、午後のトークセッションから夜のレセプションまで、日本語と英語を使い分けながら、ゲストへのご挨拶や会の進行に携わっていらっしゃいました。
忙しい中でも、笑顔で「ありがとうございます」と声をかけていらっしゃる姿が印象的でした。
ウイスキーを造ることはもちろんですが、一つの蒸留所を事業として形にし、たくさんの人と関係を築き、繋いでいくことも大切な仕事なのだと思います。
小諸蒸留所の公式YouTubeで、KOMORO ORIGINのボトル底面にある三つの輪には、イアンさん、良衣さん、島岡社長という三人の意味も込められていると知りました。

この三人をはじめ、多くのスタッフや関係者の方々の力が重なって、ようやく完成した一本なのですね。
ボトルデザインに込められたお話は、また別の記事で詳しくご紹介したいと思います。
華やかなレセプションと、陰キャすぎる私
セレモニーのあとは、レセプションディナー!

華やかな会場にはたくさんのゲストが集まり、あちこちで楽しそうな会話が弾んでいました。
ご挨拶を交わす方、熱心にお話しされている方。
皆さんが楽しそうに談笑されている姿を見て、素敵だなぁと思いました。
そんな中、私はというと……。
陰キャすぎて、こういう大人数のキラキラした場が本当に苦手!!!(笑)
気づけば会場のいちばん端っこに座って、皆さんの様子を眺めていました。
でも、これはこれで楽しいんです。
こんなに素敵なレセプションを開催するために、いったいどれほどの人が動き、どれほどの準備を重ねてきたのでしょう。
この美しい蒸留所の設計やデザインが形になるまでにも、きっとたくさんの試行錯誤があったはず。
そんなことを勝手に想像しながら、会場全体を眺めていました。
もちろん、お料理も気になります。
何度か「取りに行こうかな」と思ったのですが、お料理の周りには人がいっぱい。
陰キャには、あの輪に入る勇気がなかなか出ません(笑)。
お散歩がてら、外へ写真を撮りに行くことにしました。
夜の小諸蒸留所はライトアップされていて、本当に綺麗!

昼間とはまた違う表情を見せる建物を、外から眺めたり、写真に撮ったり。
……ただ、寒い!!!
ということで、会場へ戻りました。
すると、皆さんはお食事をひと通り終え、ドリンクを片手に歓談されているところ。
よし、今だ!(笑)
ようやくお料理をいただいてみると……。
びっくりするほど美味しい!!!
ケータリングというより、もはや料亭のお料理でした。
この素晴らしいお料理については、ぜひ写真でご覧ください。








富良野へと広がる、新しい挑戦
レセプションの途中では、良衣さんがゲストの方々にお話を振り、ご挨拶をいただく場面もありました。
その中で、富良野市長もご挨拶されました。
小諸蒸留所を運営する会社が、富良野に新しい蒸留所を計画していることは、以前から知っていました。
でも、市長ご自身が小諸のファーストリリースを祝うために足を運ばれていることに、私は驚きました。
小諸から富良野へ。
ウイスキー造りが、新しい土地へと広がっていく。
KOMORO ORIGINが、人と人、地域と地域を繋いでいくものに育ってほしい。
市長のお祝いの言葉に、富良野の皆さんの期待が伝わってくるようでした。
大切な日に、もう一度
そして、レセプションではもう一つ、嬉しい出来事がありました。
イアンさんが、私のところへ声をかけに来てくださったんです。
こんなにたくさんのゲストがいらっしゃる中で、私のことまで気にかけてくださるなんて。
本当にありがたくて、嬉しかったです。
でも、今日はイアンさんにとって、とても大切な日。
お話ししたい方も、きっとたくさんいらっしゃるはずです。
あまりお時間をいただくのも申し訳なくて、記念に一枚だけ写真を撮っていただきました。

サプライズで来たつもりが、始まる前から澁谷さんに見つかってしまったり(笑)。
イアンさんには、すぐに気づいて声をかけていただいたり。
そして夜にも、こうして気にかけていただいたり。
本当に嬉しい一日でした。
あの日、あの場所にいてよかった
チケットの発売日に、パソコンの前で待っていたとき。
私は、どうしてもこの日に立ち会いたいと思っていました。
そして実際に参加してみると、そこには、ウイスキーが完成するまでの年月だけでなく、たくさんの人たちの想いや繋がりがありました。
島岡社長が描いた大きな構想。
イアンさんが積み重ねてきた挑戦。
その背景にある、恩師との出逢いや、支えてきた方々の存在。
そして、ついに迎えたファーストリリースの日。
イアンさんにとっても、人生の大切な節目となる一日だったと思います。
その日に、限られた席の一つに座り、同じ時間を過ごせたことが、本当に嬉しかったです。
島岡社長がお話しされていた、
「あの日、あの場所にいてよかった」
という言葉。
私はもう、そう思っています。
この特別な一日をご一緒させていただけたことに、心から感謝しています。

(セレブレーションDAYでプレゼントされたお品物)
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【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社Little.m 代表取締役/オーナーバーテンダー
広島・流川で2006年からウイスキーとラムの専門店「Bar Little Happiness」を営む。国内外の蒸溜所を訪ね、造り手の話をコラム「ウイスキーとラムの手帖」に綴っている。広島市優良技能者。
「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
【お店の情報】📍 Bar Little Happiness
広島市中区流川町5-14 Rolling流川 1F
月〜土 19:00〜24:30/日 19:00〜24:00(店主が蒸溜所へ旅に出る日はお休み)
ノーチャージ・予約不要
🛒 遠方の方はオンラインショップからもお求めいただけます。