小諸蒸留所・桃のように香るニューメイクと、50年かけて湧く水(第2話)
2026.7.08
第1話では、この夜が生まれた「ご縁」の話をしました。
ここからの第2話は、いよいよ主役――小諸蒸留所(KOMORO DISTILLERY)のウイスキーそのものを、一杯ずつご紹介していきます。
Bar Little Happinessのカウンターに並んだのは、ノンピートのニューメイクと熟成、ピーテッドのニューメイクと熟成、そして最後にスペシャルなボーナスがひとつ。

今回は、その入口――ノンピーテッドのニューメイクと、小諸蒸留所の「水」の話です。
ジェントルでメローな優しいニューメイク
最初の一杯は、ノンピーテッドのニューメイク。
46%まで加水され、アルコールの刺激が、ほとんどありません。
一般的にニューメイクといえば、鼻を突くような刺激臭のあるものも少なくありません。
でも、小諸蒸留所のニューメイクは、驚くほどジェントル。
イアンさんは、これを「熟した果実のよう」と表現します。
主役は、桃。 そして、苺。 グリーンアップルのような爽やかさに、キウイのようなシトラス感。
グラスを少し離して嗅ぐと、奥のほうにライチがひそんでいます。
口に含むと、今度は麦芽のビスケットのような香ばしさ。 余韻が甘い。
この甘さが、不思議です。
まだ発酵と蒸留しかしていないのに、どうして甘いのか。
これは、アルコールが持つ自然な甘さ。
蒸留した液体には、糖はほとんど残らないのに、それでも、ほんのり甘い。
学術的には、アルコールが甘味の受容体を刺激するためと説明されるそうですが、 糖のない蒸留液が、こんなにも優しく甘い——その不思議こそ、ニューメイクの魅力のひとつです。
熟成させなくても、そのまま飲めてしまうほど、優しい。 そんな小諸蒸留所のニューメイク。

その優しさは、麦芽から始まっていた
あの優しい味わいは、どこから来るのか。
まず土台になっているのが、麦芽です。
小諸蒸留所は、麦芽をイギリスから仕入れています。
いくつかの麦芽を比べたうえで選んだのは、デンプンの含有率が、より高いものでした。
デンプンは、糖に変わり、やがてアルコールになる、いわば酒質の土台。
より多くのデンプンを含む麦芽を選ぶ——その一粒の選択から、小諸蒸留所のウイスキーづくりは始まっています。
桃の香りは、酵母と発酵から
「長野は桃の名産地だから、桃を目指しているんですか?」
会場からそんな声も上がりました。 たしかに長野は、桃の名産地。

でも、あの桃のような果実味の本当の理由は、そこではありません。
いちばんの秘密は、小諸蒸留所が使う特別な酵母にあります。
発酵にかける時間は、72時間。 まる3日間です。
そのうち後半の10〜15時間ほどは、乳酸発酵の時間にあてられます。
特別な酵母と、じっくり時間をかけた発酵。
その二つが、あのフルーティーなニューメイクを描いているのです。

(↑小諸蒸留所に訪問時撮影・木桶発酵槽と奥にステンレス発酵槽)
「50年かけて、イアンさんを待っていた水」
小諸蒸留所のウイスキーを語るうえで、絶対に外せないのが、水の話です。
小諸蒸留所は、活火山・浅間山(標高およそ2,500メートル)の中腹、標高910メートルの場所にあります。
イアンさんは初めて訪れたとき、浅間山の頂にいつもかかっている「雲」を見て、これは雲だと思っていたそうです。
でも、それは雲ではなく、活火山から立ちのぼる煙でした。

(↑小諸蒸留所に訪問した際、駐車場のスタッフさんが、あれが浅間山だよと教えてくれた)
その火山の頂から湧き水がこの地に下りてくるまで、なんと(約50年)。
50年ものあいだ、大地の自然なろ過を受けて、ミネラルたっぷりの硬水になる。

なぜ、硬水なのか。
イアンさんは、よくそう聞かれるそうです。
でも、答えははっきりしていました。 発酵のためです。
硬水に含まれる豊富なミネラルは、酵母の活性化にとてもよく効く。
酵母だけでなく、発酵に関わるほかの微生物にとっても、人間にとってのビタミンのような栄養になる。
だから、発酵のレベルを上げるには、硬水が必要なのだと。

この水にまつわる話で、私がいちばん好きなくだりがあります。
イアンさんが日本に来て、この会社に入ったのは2020年。
入社したときは46歳、そして今、52歳になりました。
浅間山の水は、湧き出てくるまでに50年かかる。
「50年かけて出てくる水ということは、ほぼ自分が生まれた頃の水を、いま使えているんです」
まるで、その水が、ずっとここで自分を待っていてくれたみたいに。
「私は、日本に来るために生まれてきたのかもしれません」
イアンさんは、そう言ってお茶目に笑いました。

一杯目のニューメイクから、麦芽、そして水。
まだ熟成に入る前の、いちばん最初の段階だけで、これだけの物語がある。
でも、小諸蒸留所の本当の面白さは、ここからです。
次の第3話では、このニューメイクが樽で熟成したあとの姿。
2年足らずで驚くほど濃く色づくニューボーン、クリスマスに焚く優しいピート、そして「夏はサンドペーパー、冬は酸素」という熟成の哲学へ。
― 小諸蒸留所・イアン・チャンさん テイスティング会シリーズ ―
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小諸蒸留所のイアン・チャンさんを迎えたテイスティング会にて。 Bar Little Happiness/谷本美香
📍 Bar Little Happiness
広島市中区流川町5-14-1F
月〜土:19:00〜24:30 / 日:〜24:00
(最終入店・約1時間前)
定休日:ほぼ年中無休
ご予約・お問い合わせは、公式LINEから🥃
🔗 オンラインショップ:https://shop.little-happiness.jp/
カメラマンに写真を依頼したのですが、ほとんどがボケていて使えません…
どなたか、修正技術のある方がいたら、お知恵をお貸しくださいませー!