静岡蒸溜所6年 Bar Little Happiness 20th 旅するLito
2026.11.06
「とんでもなく個性的!!!!!」
静岡蒸溜所の熟成庫。
樽から直接いただいた原酒が、あまりにも美味しくて、思わず声が出ました。
2026年6月8日。中村大航社長に、熟成庫を案内していただきました。
そこで出逢ったのは、まったく性格の違う2つの原酒。
そして、この日の体験が、リトハピ20周年記念ボトリングの最後の一樽へと繋がっていくのです。

第1話「ガイアフロー静岡蒸溜所|薪の炎と軽井沢の蒸留器。」はこちら
樽が眠る、熟成庫へ
中村さんに案内していただき、静岡蒸溜所の熟成庫へ入りました。
ワインのバリック、プライベートカスク用に小さく作り替えられた樽。そして、普段のツアーではご案内していない第3熟成庫には、富士山で採れたミズナラから造られた、大きな樽も眠っていました。


樽の間を歩いていると、ふっと香りが変わる瞬間があります。
この日も、奥へ進んだところで、急に香りが変わったように感じました。
樽の中で育まれているウイスキーを、香りでも感じられる場所です。
樽から直接いただいた、2つの原酒
この日、テイスティングさせていただいたのは2つの樽です。
ひとつは、軽井沢蒸留所から受け継いだ蒸留器「K」で造られた、ノンピートの原酒。1653番。
もうひとつは、薪直火の蒸留器「W」で造られた、ピート原酒。1562番。


第1話でもご紹介したように、WとKはまったく性格の違う蒸留器です。
Wは重厚で余韻が長く、Kはフルーティーで軽やか。
その違いを、熟成庫で直接味わわせていただきました。
さらに、グラスに残ったWとKを合わせて、即席の「S」も楽しみました。
それぞれの個性が、合わさることでどう変わるのか。
そんな飲み比べまでできるなんて、楽しい!
そして、もうひとつ、嬉しい体験が待っていました。
初めて、自分の手で樽からボトルに詰める
樽から直接ボトルに詰める、ハンドフィルを体験させていただいたのです。
詰めたのは、Wで蒸留されたピート原酒、1562番の樽。
2019年10月28日蒸留、バーボンバレル熟成。2026年6月8日時点で65.3%です。

慣れない道具は思っていたよりも重く、作業もなかなか難しい。
それでも、自分の手でボトルに詰めることができました。


何年もかけて造り、育てられてきたウイスキー。その最後の工程を、ほんの少しだけ体験させていただきました。
静岡蒸溜所の、もうひとつの顔
中村さんは、「もう一杯」と思える、飲み飽きないウイスキーを目指していると話してくださいました。
でも、私がハンドフィルした1562番は、まったく違う味わいでした。
驚くほどパワフル。
正直、かなり飲み手を選ぶ原酒だと思います。
それでも、私はすごく惹かれました。
静岡には、こんなウイスキーもあるんだ!
静岡蒸溜所の定番ボトルには、華やかで軽やか、繊細な印象を持っている方も多いのではないでしょうか。
けれど、ここには、こんなに力強いピート原酒もある。
中村さんのお話では、ピート原酒の仕込みは数が少なく、基本的にはしっかりとしたヘビーピートなのだそうです。
ノンピートへの切り替えでは、設備に残るピート香への対応も必要になります。
静岡蒸溜所には、まだまだ知られていない個性がある。
私は、それをウイスキーラバーの皆さんと共有したいと思いました。
20周年の記念ボトリングを、静岡で
その場で、中村さんにお願いしました。
リトハピの20周年記念ボトリングを、静岡で詰めさせていただきたい、と。
2026年、Bar Little Happinessは創業20周年を迎えました。
これまでの20年間に出逢い、お世話になった造り手の方々とのご縁を形にしたくて、想い出のある蒸留所の皆様にお願いしてきました。
中村さんとは、インポーターとしてウイスキーを届けていらっしゃった頃からのご縁があります。
フェッターケアンPB、一般公開前の蒸留所旅行、広島でのセミナー。入院やコロナ禍の苦しい時期にも、あたたかい言葉や機会をいただきました。

以前の私は、組織の力でバーテンダーという仕事の地位を上げ、豊かさが巡る仕組みをつくりたいと思っていました。
けれど、組織を大きく保とうとするほど、私が変えたかったはずの構造を、自分の手で繰り返してしまう。
そんな葛藤も経験しました。
今は、本店のカウンターに私ひとりで立っています。
旅に出て、造り手の方々のお話を聞き、心が動いたものを書き、そのボトルを仕入れ、お客様にお出しして、また旅に出る。
小さいけれど、私が大切にしている循環です。
20周年の記念ボトリングも、その延長線上にあります。
そして今回、熟成庫で味わったWの強烈なピート原酒が、静岡蒸溜所の新しい魅力を伝える一本を造りたいという気持ちを、さらに強くしてくれました。
いろんな個性が合わさることで、生まれるもの
後日、静岡蒸溜所から3種類のピート原酒のサンプルが届きました。
薪直火のWだけの樽。
軽井沢から受け継いだKだけの樽。
そして、WとKの原酒を、樽詰めの前に合わせた樽。
どれも、それぞれに美味しかった。
出発点は、あの日、熟成庫で味わったWのピート原酒への感動です。
そのうえで、3つを飲み比べながら、もうひとつ大切にしたいことがありました。
静岡蒸溜所そのものを、一本のウイスキーで表現したい。
最終的に選んだのは、WとKの原酒を樽詰め前に合わせた2163番です。
薪直火のWの力強さと、軽井沢から受け継いだKの華やかさ。飲んでみて、両方のいいところどりだと感じました。
それぞれが十分に魅力的で、合わさることで、どちらか一方だけでは生まれなかった魅力が生まれる。
人間だって、そうですよね。
力強いところも、繊細なところも、矛盾して見えるところもある。
そのどれか一つが、その人のすべてではない。
静岡蒸溜所も同じだと思うのです。
薪の直火という挑戦も、軽井沢から受け継いだ蒸留器も、まったく違う原酒の個性も。
WだけでもKだけでも語りきれない、その多面性ごと、一本のボトルに詰めたかった。
飲み方で、表情が変わる一樽
2020年7月蒸留、2026年9月瓶詰め。バーボンバレルで約6年熟成した原酒です。
静岡の暑い夏を越えた原酒には、樽由来の香りがしっかりと感じられました。6年熟成ながら、未成熟な印象はありません。
加水を一切していない、66.8%のカスクストレングス。
ストレートなら、グラスをゆっくりスワリングして、香りを開かせてから。
少しだけ加水するのもおすすめです。
ハーフロックも良きです!
そして実は、ハイボールにもとっても合うんです!
これだけ力強い個性を持ちながら、飲み方によって違う魅力を見せてくれる。
そんなところも、今回の2163番の面白さだと思います。
薪を運ぶ、小さな精霊Lito
今回のラベルにも、リトハピの小さな精霊「Lito」が登場します。

Litoは、リトハピのカウンターに染み込んだ想いから生まれた、小さな精霊です。
「旅するLito」は、20周年の記念ボトリングから始まったコンセプト。
ボトルに乗ったLitoが広島の片隅から旅立ち、出逢った人にとっての「あなただけのLito」になる。
そして旅先で出逢った物語を、またリトハピへ連れて帰ってくる。

桜尾、イチローズモルトに続いて、今回Litoが旅をしたのは、静岡の森の中でした。
静岡蒸溜所があるのは、静岡市の市街地から車で30〜40分ほど山あいへ入った、「オクシズ」と呼ばれる地域。
まわりには杉の森が広がり、蒸留所のすぐそばには川が流れています。
川には魚が泳ぎ、森には鳥の声が響く。
自然の恵みにあふれた、森の中の蒸留所です。
仕込み水は、南アルプスから流れてくる川の伏流水を、敷地内の井戸から汲み上げたもの。
発酵槽には静岡の杉が使われ、蒸留器Wの炎を燃やす薪も、地元の森の間伐材です。
静岡蒸溜所のロゴには、鳥と魚が描かれています。
今回のラベルにも、その森と川の仲間たちを描きました。



Litoが運んでいるのは、その森からやってきた薪。
くべる先は、世界でも珍しい薪の直火蒸留器「ポットスチルW」です。
よく見ると、Litoは暗闇の中で、Wに火をくべています。
これは、中村さんへの敬意を込めた場面です。

お手本も答えもほとんどない挑戦に、中村さんは試行錯誤を重ねてこられました。
薪の直火でウイスキーを蒸留する。
失敗も経験しながら、少しずつ、自分たちのスタイルをつくり上げていく。
暗闇の中で灯る小さな炎は、その姿そのものだと思っています。
そして、この一本には、もうひとつの挑戦も込められています。
軽井沢蒸留所から受け継いだ蒸留器「K」です。
軽井沢蒸留所に4基あったポットスチルのうち、最も状態の良い部品を集めてフランケンシュタインのように1基を組み直し、静岡で再びウイスキーを造れるようにした。
前例の少ない薪直火への挑戦と、止まっていた設備を再び動かす挑戦。
異なる歴史を持つWとKから生まれた原酒が、2163番ではひとつになっています。
Litoがくべた薪から立ちのぼる煙は、「PEAT」の文字になっています。
このボトルがヘビーピートであることを表すとともに、あの熟成庫で感じた驚きや、これまでのご縁も重ねました。
形のない想いが、煙のように混ざり合いながら、空へとのぼっていく。
そんなイメージで描いてもらいました。

Litoが生まれたお話は、こちらの記事に書きました。
このボトルを手に取ってくださった方へ
静岡の森で薪を運び、暗闇の中で小さな炎を灯したLito。
20周年の記念ボトリングとしては、これが最後の一本です。
けれど、Litoの旅は、ここで終わりではありません。
今度は、このボトルと一緒に、皆さんのもとへ旅立ちます。
私は、ウイスキーを通じて、たくさんの素敵な方々に出逢ってきました。
造り手の方々が人生をかけて積み重ねてきた挑戦を知り、その想いに触れるたびに、ウイスキーがもっと好きになります。
人生をかけて何かをやっている人は、かっこいい。
今回の一本にも、そんな造り手の物語が詰まっています。

薪の炎で生まれた力強いWと、軽井沢から受け継がれたK。
違う歴史を歩んできた2つの蒸留器から生まれた原酒が、ひとつになりました。
ぜひ、グラスを傾けながら、静岡の森で燃える薪の炎に思いを馳せてみてください。
ひとりでゆっくり飲む夜も、大切な人とグラスを交わす時間も。
この一本が、皆さんの時間の中で、どんな物語になっていくのか。
Litoが私の手を離れ、あなたのもとへ旅立っていった先で。
今度は、あなただけのLitoになりますように。
そしていつか、その旅の続きを聞かせていただけたら嬉しいです。
Bar Little Happiness 20周年記念ボトリング〜旅するLito〜|静岡蒸溜所
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 蒸留所 | ガイアフロー静岡蒸溜所 |
| カスクNo. | 2163 |
| 原酒 | W(薪直火)とK(軽井沢由来)の原酒を樽詰め前に合わせたもの |
| タイプ | ヘビーピート |
| 樽 | バーボンバレル |
| 蒸留 | 2020年7月 |
| 瓶詰め | 2026年9月 |
| 熟成年数 | 約6年 |
| アルコール度数 | 66.8%(カスクストレングス) |
| 限定本数 | 164本 |
販売については、公式LINEから先行してご案内いたします。
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【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社Little.m 代表取締役/オーナーバーテンダー
広島・流川で2006年からウイスキーとラムの専門店「Bar Little Happiness」を営む。国内外の蒸溜所を訪ね、造り手の話をコラム「ウイスキーとラムの手帖」に綴っている。広島市優良技能者。
「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
【お店の情報】📍 Bar Little Happiness
広島市中区流川町5-14 Rolling流川 1F
月〜土 19:00〜24:30/日 19:00〜24:00(店主が蒸溜所へ旅に出る日はお休み)
ノーチャージ・予約不要
🛒 遠方の方はオンラインショップからもお求めいただけます。