小諸蒸留所ウイスキーアカデミー体験記|ピートと熟成、学ぶほどに広がるウイスキーの世界
2026.11.05
長野県の小諸蒸留所で開催されている「ウイスキーアカデミー(Whisky Academy)」に参加してきました。
今回受講したのは、ピートを学ぶ「The Story of Peat」と、熟成を学ぶ「Art of Maturation」の2講座。
ブラインドテイスティングを交えながら、ウイスキーの製造や熟成について専門的に学べる講座です。
講座本編はそれぞれ約60分で、受講には製造現場の見学ツアーも含まれています。
実際の講座内容や難易度、会場の雰囲気、受講して感じたことを、私の視点からご紹介します。

ファーストリリースを前に、小諸蒸留所へ
2026年11月。
小諸蒸留所のファーストリリース「KOMORO ORIGIN」に合わせて、長野県小諸市を訪れました。
今回の滞在で楽しみにしていたことの一つが、ウイスキーアカデミー。
以前、小諸蒸留所を訪ねたときには、その存在を知りませんでした。
その後、人から教えていただいて調べてみると、ピートや熟成など、さまざまなテーマの講座が用意されていることを知りました。
これは受けてみたい!
希望していた日の講座は満席だったため、予定を一日早めて小諸入りしました。
ポットスチルを眺めながら学ぶ、素敵な空間
まず、会場が本当に素敵でした。
講座が行われるのは、ガラス張りの向こうに製造エリアを見渡せるお部屋。
ポットスチルを上から眺めながら、ウイスキーについて学ぶことができます。
夕方になると外が暗くなり、スポットライトに照らされたポットスチルが美しく浮かび上がります。


ここにいられるだけで、心が満たされる美しい空間でした。

テーブルには、テイスティンググラスや資料、水、クラッカーなどがあらかじめ用意されていました。
受講には、製造現場の見学ツアーも含まれています。
私は2講座を続けて受講し、ピート講座のあと、熟成講座の前に一度、製造現場を見学しました。


そして、2講座とも担当してくださったのはOさん。
知識がとても豊富で、説明が丁寧。しかも、少しも偉ぶったところがありません。
私は仕事柄、ウイスキーについてある程度知っていることを前提にお話しいただく機会が多いのですが、Oさんは基礎から一つひとつ説明してくださいます。
これが、とてもありがたかった。
分かっているつもりだったり、曖昧なままになっていることは、たくさんあります。
今回の講座では、そんな知識を復習しながら、これまでの経験と結びつけていくことができました。
The Story of Peat|ピートの世界は、思っていたよりずっと広かった

最初に受講したのは、ピートをテーマにした上級講座「The Story of Peat」。
7種類のウイスキーをブラインドでテイスティングしながら、ピートの成り立ちや香り、製造工程による違いを学びます。
この日は、ラッキーなことに受講者が私一人!
講師を独り占め。Oさんに以前からの疑問を直接伺いながら、じっくり学ぶことができました。
PPMが高ければ、スモーキーなのか?
ピートウイスキーの説明でよく登場する「PPM」という数値。
ピーテッド麦芽に含まれるフェノール類の濃度を表す指標ですが、実際に飲んだときのスモーキーさは、その数値だけで決まるわけじゃないんです。
講座では、PPMの異なるウイスキーを飲み比べながら、その理由を学びました。
同じような麦芽を使っていても、蒸留器の形や、蒸留した液体のどの部分を取り出すかというカットポイントによって、出来上がる原酒の個性は変わります。
さらに、その後の熟成によっても、ピートの印象は変化していきます。
普段、私たちが飲んでいる一杯には、本当にさまざまな要素が関わっているんですね。
(私はオクトモアが誕生した頃から、更にPPMについて疑問が増えていきました)
香りだけでは、ピートが分からなくなる
今回、特に驚いたのがブラインドテイスティングでした。
最初はそれぞれの香りの違いを確かめていたのですが、何度も確認していると、だんだん分からなくなっていきました。
ピートといえば、どうしても分かりやすくスモーキーなウイスキーを思い浮かべてしまいます。
でも、ピートの表れ方は、強い煙の香りだけじゃないんです。
ほかの香味と重なり合いながら、ウイスキーの個性を形づくっていることもあります。
私は普段から、ピートはウイスキーに深みを与える存在でもあるとお客様にお話ししています。
それなのに、お客様から「ピートのウイスキーが飲みたい」と言われると、分かりやすくスモーキーな銘柄を中心にご提案していたかもしれません。
もっといろいろな角度から、ピートウイスキーの魅力をご紹介できるはず。
そんなことを考えました。

大好きなウイスキーなのに、分からない!
私はピートウイスキーの中に、抜群に好きな銘柄があります。
あのフルーティーな柑橘系の香りが大好き。
今回のブラインドテイスティングでは、その銘柄だけ当てることができました笑
香りを取ったときに「これかな?」と思ったものの、口に含むと、なんだか違うような気もする。
正解を聞いて、やっぱりそうだったんだ!と驚きました。
ほかにも、知っているはずのウイスキーなのに、普段抱いている印象とはまったく違うものがありました。
私たちは、ボトルのデザインや、それまでに得た知識に、どれほど影響されながら飲んでいるのでしょう。
ラベルを見ずに飲むと、知っているはずのウイスキーが、違う表情を見せてくれます。
アイラピートとハイランドピート、何が違う?
講座の最後には、以前から気になっていたことを質問しました。
アイラピートとハイランドピートの違いについてです。
以前、ある造り手の方から、ハイランドピートは「パワフル」、アイラピートは「優しい、女性的な印象」だと伺ったことがありました。
ところが、別の造り手の方からは、違う説明を聞いたことがあります。
いったい、どちらなのでしょう。
Oさんのお話では、「パワフル」「女性的」といった表現は、感じる人によって解釈が異なるもの。
ピートに含まれる植物の違いだけでなく、蒸留方法や熟成によっても印象は変わるため、産地だけで単純に決められるものではないということでした。
そう考えると、ピートの違いを知るには、実際に飲み比べて、自分の感覚で確かめていくことも大切ですね。
ちなみに、7種類のテイスティングでは、最後にも大きな驚きがありました。
どんなウイスキーが登場したのかは、ここでは秘密にしておきます。
ぜひ、実際に受講して楽しんでいただきたいです。
ブラインドで飲むことと、背景を知って飲むこと
今回の講座で、もう一つ考えたことがあります。
ブラインドテイスティングでは、ボトルのデザインや事前の知識に影響されず、香りや味わいに向き合うことができます。
でも私は、ウイスキーの背景を知ることで、その一杯をもっと美味しく感じることもあると思っています。
実際、私自身がそうでした。
私はもともと、ピートの強いウイスキーを自分から選んで飲むことは少なかったんです。
アイラ島を訪ねたのも、なぜアイラのウイスキーがこれほど愛されるのか、その秘密が知りたかったから。
その後も、ピートは深く追いかけないまま。
そんな私が、三郎丸蒸留所の会社のビジョンや、造り手の方々の想いを知ったことで、ピートウイスキーを飲むことが好きになりました。
こういう想いで造られたウイスキーなんだ。
そう思うと、私には本当に尊く美味しく感じられたのです。
三郎丸蒸留所のことは、三郎丸蒸留所レポート総集編にまとめています。
今回のブラインドテイスティングで、自分がどれほど知識やイメージに影響されて飲んでいるのかを実感しました。
その一方で、造り手の想いを知ることが、ウイスキーを好きになる大きなきっかけにもなる。
だからこそ、お客様にお伝えする言葉を、もっと大切にしたいと思いました。
ピートの強さだけでなく、造り手がどんなウイスキーを目指し、どのような方法でその味わいを生み出しているのか。
そうした背景も含めて、もっと深くご紹介できるようになりたいです。
ちなみに、小諸蒸留所のピートは約25ppm。この数字は、ジム・スワン博士のお誕生日、12月25日にちなんでいるそうです。
このお話は、以前イアンさんから伺い、クリスマスに焚く、優しいピートの記事に書いています。
Art of Maturation|熟成の謎に迫る

続いて受講したのが、熟成をテーマにした中級講座「Art of Maturation」。
こちらは5種類のウイスキーを飲み比べながら、熟成年数や樽の種類、熟成環境による違いを学ぶ講座です。
熟成によって変わる、果実の香り

最初は、熟成年数の異なるウイスキーをブラインドで比較しました。
私は、フレッシュなリンゴのような香りと、バニラのような甘い香りを感じました。
Oさんからは、熟成によって原酒の個性と樽由来の香味のバランスが変化すること、そして、果実の香りもフレッシュなものから熟した果実を思わせるものへと変わっていくことが説明されました。
加水によって香りが変化することも、実際に確かめます。
私は、こういう熟したフルーツの香りが大好きです。
同じ果実の香りでも、熟成によってこんなふうに表情が変わる。
飲み比べながら学ぶと、とても分かりやすいですね。
トースティングとチャーリング、そしてSTR樽
今回、特に興味深かったのが樽の加工技術についてのお話です。
樽の内側を加熱する「トースティング」と「チャーリング」。
トースティングは、木材を加熱することで香味成分の生成を促す工程。
チャーリングは、より強い火で樽の内側を炭化させる工程で、炭化層には好ましくない香味成分を吸着する働きもあります。
講座では、実際の製樽工程の映像や、加工の異なる木材を見ながら学びました。


そして、STR樽。
STRとは、赤ワイン樽の内側を削り(Shaving)、加熱し(Toasting)、再び炭化させる(Re-charring)技術です。
赤ワイン樽をそのまま使うのではなく、木材の表面を加工し直すことで、熟成に適した状態へと整えていきます。
この技術には、ジム・スワン博士が深く関わっています。
そして、その技術を受け継いだ一人が、小諸蒸留所のマスターブレンダー、イアン・チャンさんです。
私は以前から、お二人の関係についてもちろん知っていました。
でも、具体的な技術を学ぶことで、その繋がりをより深く理解できた気がします。
イアンさんがカバランから小諸へと受け継いできたものについては、講座とは別に書いた以前の記事「継承 ―― カバランから小諸へ、イアン・チャンが運んだもの」でも紹介しています。
誰かが試行錯誤して生み出した技術が、次の造り手へと受け継がれていく。
そして、受け継いだ人が、その技術をさらに磨き、新しいウイスキーを造っていく。
私は、こういうウイスキーの世界が大好きです。
ミズナラ樽と、時代が生んだ選択
ミズナラ樽についてのお話も印象に残りました。
現在では、日本のウイスキーを象徴する木材の一つとして知られるミズナラ。
その利用の歴史には、戦争による物資不足という時代背景も関係しています。
また、ミズナラは成長に非常に長い年月が必要で、樽材として扱うことも難しい木です。
木材の性質を理解し、試行錯誤を重ねながら使い方が確立されてきたこと。
今では当たり前のように耳にする樽の種類にも、そんな歴史があるんですね。
熟成には、まだ分からないことがある
そして、私が特にワクワクしたのが、熟成には科学的にまだ十分解明されていないことが多い、というお話です。
樽の中で何が起こり、なぜあのような香りや味わいへと変化していくのか。
長い歴史の中で研究が重ねられてきた今も、まだ分かっていないことがあるんです。
だからこそ、それぞれの蒸留所が、自分たちの哲学を形にしようと試行錯誤を続けているんだなと。
その土地の環境に合わせて造り方を工夫し、改良を重ね、次の世代へと受け継いでいく。
私は、そうした造り手の方々の取り組みに、強く惹かれます。
熟成する場所は、味わいにどう影響するのか?
講座では、樽の種類や熟成年数だけでなく、熟成する土地の気温や湿度によっても変化が異なることを学びました。

そこで、以前から疑問に思っていたことを質問しました。
海沿いの蒸留所で熟成したウイスキーに感じる「潮っぽさ」。
あれは本当に海の影響なのでしょうか。
それとも、海沿いの蒸留所だと知っているから、そう感じているのでしょうか。
Oさんは、事前に知っている情報が味わいの感じ方に影響する可能性について説明してくださいました。
一方で、仕込み水や発酵など、その土地の環境がウイスキーの個性に関わることも考えられるとのこと。
海沿いで熟成すること自体が、どの程度その香りに影響するのかについては、今回のお話だけでは結論は出ませんでした。
だからこそ、ますます確かめたくなりました。
実際にそうした環境の蒸留所を訪ねて、もっと深く知りたい。
そして、私にとって身近な桜尾蒸留所にも、海沿いの桜尾と、山間部の戸河内という異なる熟成環境があります。
これまでも、その違いをお客様にご説明してきました。
でも、今回学んだことを整理すれば、もっと深く、その魅力をお伝えできるのではないかと思っています。
知っていたことが、繋がっていく楽しさ
私は20年間、さまざまな蒸留所を訪ねてきました。
初めて海外の蒸留所を訪ねたのは、2009年スコットランドのアイラ島。
当時は全く知識もなく、英語も分かりませんでした。(英語は今でも全くわかりません笑)
通訳をお願いしたものの、日本語のできる方が見つからず、現地でアテンドしていただく形になりました。
せっかく蒸留所を訪ねても、雰囲気を楽しみ、ただそこにいられることが嬉しいだけで、理解できないことばかりでした。
それはそれで良い思い出なので良いのですが、もっと知識があればもっと楽しかっただろうと思います。
その頃のアイラ島の思い出は、ラフロイグとリトハピの絆の記事にも書いています。
もし今、もう一度アイラ島を訪ねたら、きっと違うものが見えるはず。
聞いてみたいことも、以前とはずいぶん変わりました。
例えば、さまざまな試行錯誤を重ねた中で、その蒸留所が「やらない」と決めたこと。
どんなウイスキーを造りたいのかを知るためには、何を選んだかだけでなく、何を選ばなかったのかも聞いてみたい。
そこにも、その蒸留所が大切にしている哲学が表れているように思います。
最近は蒸留所を訪ねるたびに、ブログを書くことで、伺ったお話や自分が感じたことを整理しています。
でも、以前訪ねた蒸留所の多くは、そうした時間がとれませんでした。
今なら、当時は気づけなかった造り手のこだわりを、もっと深く理解できるかもしれません。
今回のウイスキーアカデミーでは、これまで別々に学んできた知識が、バババーっと繋がっていく感覚がありました。
私がもっと学びたいと思うのは、造り手の方々の想いを、より深く受け取れる自分になりたいから。
そして、そこで受け取ったものを、私の言葉でお客様にお伝えしていきたいからです。
小諸蒸留所のウイスキーアカデミーは、こんな方におすすめ
今回受講した「The Story of Peat」と「Art of Maturation」は、どちらも専門的な内容でした。
特にピートの講座は、ある程度ウイスキーの知識がある方が理解しやすいと思います。
でも、すべてを理解できなくても、知らなかったことに興味を持つきっかけになるはず。
ウイスキーが好きな方なら、もっといろいろなウイスキーを飲んでみたくなると思います。
そして、すでに知識のある方には、これまで学んできたことを整理し、理解を深める楽しさがあります。
私が受講したときは、ピート講座が私一人、熟成講座が二人という少人数でした。
希望日が取れず一日早めての受講でしたが、その結果、少人数で、以前からの疑問をじっくり質問することができました。
講座の最後には、修了カードもいただきました。

私のおすすめは、ピートと熟成の2講座を続けて受講すること。
ピートの講座で学んだ蒸留や熟成の話が、次の熟成講座にも繋がっていて、理解がより深まりました。
2講座で合計12種類のウイスキーをテイスティングしました。
もちろん、お酒の強さには個人差がありますので、ご自身のペースで楽しんでいただければと思います。
そして何より、Oさんの講座が本当に楽しかった!
どんな質問にも丁寧に向き合ってくださり、受講している最中から、次々に新しい疑問や興味が湧いてきました。
ウイスキーアカデミーには、他にも様々なテーマの講座が用意されています。
学ぶほどに、もっと知りたくなる
20年間ウイスキーに携わってきても、まだまだ知らないことばかり。
今回の講座では、これまで曖昧だったことが整理され、新しい発見もたくさんありました。
これから蒸留所を訪ねるときには、きっと今までとは違う質問ができると思います。
そして、リトハピでお客様にウイスキーをご紹介するときにも、これまで以上に、その一本の魅力を深くお伝えできるようになりたいです。
何より、学んでいる時間そのものが本当に楽しかった!
Oさん、素敵な学びの時間をありがとうございました💛
小諸蒸留所 ウイスキーアカデミー|受講情報
The Story of Peat(ピートを極める)
- 難易度:上級
- テイスティング:7種類
- 主な内容:ピートの成り立ち、PPM、産地や蒸留工程による香味の違いなど
Art of Maturation(熟成の謎に迫る)
- 難易度:中級
- テイスティング:5種類
- 主な内容:熟成年数、樽の種類、製樽技術、熟成環境など
講座本編はいずれも約60分。受講には製造現場の見学ツアーも含まれています。
2講座を続けて受講した私は、講座の間に一度見学しました。講座ごとの見学の扱いは、予約時にご確認ください。
開催日、料金、予約方法などの最新情報は、小諸蒸留所の公式サイトをご確認ください。
公式サイト:https://komorodistillery.com/whisky-academy/
※この記事は2026年11月の受講体験をもとにしています。
※実際に受講したときの驚きや発見を大切にしていただきたいので、ブラインドテイスティングの銘柄や答えなど、講座の内容の一部はあえて伏せて書いています。
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【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社Little.m 代表取締役/オーナーバーテンダー
広島・流川で2006年からウイスキーとラムの専門店「Bar Little Happiness」を営む。国内外の蒸溜所を訪ね、造り手の話をコラム「ウイスキーとラムの手帖」に綴っている。広島市優良技能者。
「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
【お店の情報】📍 Bar Little Happiness
広島市中区流川町5-14 Rolling流川 1F
月〜土 19:00〜24:30/日 19:00〜24:00(店主が蒸溜所へ旅に出る日はお休み)
ノーチャージ・予約不要
🛒 遠方の方はオンラインショップからもお求めいただけます。