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井川蒸留所 見学レポート|行き方・ハンドフィル

2026.6.12
井川蒸溜所メンバーと、バーリトルハピネス谷本

この記事の要点

  • 井川蒸溜所は、静岡県・南アルプスの標高1,200メートルにある蒸溜所で、運営は十山株式会社です。静岡駅から車で片道約4時間かかります。
  • 仕込み水は木賊湧水。熟成にはバーボン樽とシェリー樽のほか、自社の森で育ったミズナラの樽も使っています。
  • 見学できるのは4月から11月ごろまでです。

井川蒸溜所入口

日本でいちばんの僻地にあるであろう蒸溜所。

静岡駅から井川蒸溜所まで、車で、なんと片道4時間。

前回は、「なぜ、この山の上でウイスキーを造るのか」を書きました。

今回は、私が実際に辿った道のりと、見学で見たものづくり、そしてハンドフィルの体験を、写真とともにお届けします。

道のり ── 4時間、山が教えてくれる

井川蒸溜所のメンバーがおくってくださった

蒸溜所までの道は、気が遠くなるくらいに遠いです。

森の中には道を作ったり、崖が崩れたところを修復する工事が入っており、通行止めになる時間が日毎に変わるため、時間が読めないというのが現状です。

井川蒸溜所付近のダム

何個も通り過ぎたダム。

暮らしの水を支える一方で、土砂で少しずつ埋まっていく。再生はできない施設なのだと、ここで教わりました。

井川蒸溜所付近

「赤崩れ」。

落差およそ1,000メートルの、巨大な崩落。

ディズニーランドがまるごと入ってしまうほどで、しかも見えているのは、ほんの一部だそうです。

井川蒸溜所付近・吊り橋

途中の吊り橋。足元を、澄んだ水が流れていきます。

↓怖すぎて途中までしか進んでいませんが、ぜひ動画で!!

湧き出したばかりの仕込み水。

木賊湧水と呼ばれる、南アルプスの森が濾した水です。

思わず一口。冷たくて、雑味がまるでない。これが、そのままウイスキーになります。

道の途中には、社長が手がける行者ニンニクの畑も。

山の景色は、どこを切り取っても絵になります。

道中では、猿や鹿に出会い、鳥たちの囀りが、ずっと聞こえていました。

ところどころで、絶滅危惧種を観察し、記録している人たちの姿も見かけました。

守られ、見守られている自然が、たしかにここにある。そう実感する光景でした。

入る前に ── タイヤと、靴を洗う

何時間も車を走らせたあと、車のタイヤを洗う場所があります。

外から、外来種の植物の種などを持ち込まないため。

この山の生態系を、できるだけそのまま守るための、ひと手間です。

(車の中からだったので、上手に写真を取れませんでした)

靴の底をはらうところもありました。

井川蒸溜所。外来種を受け入れないための工夫

前回書いた「触らない森」の思想が、こんなところにも息づいていました。

ここを訪ねるということは、この環境の一部に、お邪魔させてもらうということなのだと、背筋が伸びました。

製造 ── 機械が支え、最後は人が決める

蒸留所に着いて、いよいよ見学へ。

ここのものづくりは、機械と、人の感覚の、両方でできていました。

見学中、突然、館内に放送が流れて、びっくりしました。

ポットスチルにはセンサーが取り付けられていて、温度や水位が設定した値になると、自動でアナウンスが流れる仕組みなのだそうです。

人がつきっきりで張りつかなくても、「今ですよ」と機械が知らせてくれる。

ただし、ここが一番大事なところ。

蒸留したスピリッツの、どこを「いちばん美味しい部分」として樽に詰めるか。

そのカットだけは、機械任せにしません。

毎日、造り手が自分の舌と鼻で確かめて、決めているそうです。

井川蒸溜所ニューポットの味覚分析

各工程に担当者がいて、それぞれが誇りを持っている。

前回の山の話と、まっすぐ繋がりました。

井川蒸溜所樽
井川蒸溜所貯蔵庫

熟成に使う樽。バーボンやシェリーに加えて、自社の森のミズナラ樽も。

最初のミズナラ樽は、倒れて出てきた木から造られたといいます。

標高1,200メートル、霧のたちやすい森のなかで、原酒はゆっくり熟成されていきます。

ここで働く製造メンバーは、毎日この山を下りることができないので、基本的には近くに住み込み。

文字どおり、この山で暮らしながら、ウイスキーを造っています。

井川蒸溜所メンバーの社員寮

↑

この山に関わる人たちや登山者も使うようで、食事もついていて、快適なのだとか。

蒸溜所の近くには、運営する十山株式会社の本社もあります。

その2階は、南アルプスを撮り続けた山岳写真家・白籏史朗さんの写真館。

いつか、ここをバーとして開きたいのだそうです。

バーをやる者として、その日が来るのが、今から楽しみでなりません。

ハンドフィル

井川蒸溜所ハンドフィル

詰めさせてもらったのは、この蒸溜所が動きはじめた、ごく初期に蒸溜されたノンピートのバーボンバレル。

井川蒸溜所ハンドフィルボトル・リトルハピネスのカウンターにて

テイスティング

井川蒸溜所原酒

最後に、テイスティングもさせていただきました。

井川蒸溜所がいま世に送り出しているのは、4種類。それに使われた原酒です。

完成された一杯を味わう、というよりも、これから何十年もかけて育っていく、その出発点を確かめる時間でした。

↑

最新シリーズ「井川蒸溜所 シングルモルト デッサンシリーズ ファウナ 2026 」にデザインされているのは、クマタカ。

箱に採用されている風景をちょうど撮影することができました。

この環境で、どんなふうに育つのだろう

私がいちばん知りたいと思ったのは、ここから先のことでした。

標高1,200メートルの、霧の中。

気圧が低く、冷たく湿った空気。

この熟成環境は、ほかの日本の蒸溜所とは、まるで違います。

日本の多くの蒸溜所は、比較的あたたかい土地にあり、気温が高いほど、熟成は速く進みます。

けれどここは、夏でもひんやりとして、冬は氷点下まで下がる、

冷涼な高地。

だからおそらく、熟成はゆっくりと進み、基本は、じっくり時間をかけた長期熟成になっていくのだろうと思います。

実際、井川蒸溜所自身も、長く寝かせることを見据えているそうです。

この、他にない環境が、これから何年も、何十年もかけて、どう変化していくのでしょうか?

盤石な経営基盤をもつ井川蒸溜所。

これからこの山の時間を、たっぷりと吸い込んでいく。

そう思うと、先のリリースに今から楽しみでなりません。

井川をもっと ── 道すがら、周辺の見どころ

ここまで来るのは大変ですが、周辺には、足を延ばす価値のある場所が点在しています。

写真とともに、少しだけ。

南アルプス赤石温泉 白樺荘。

『ゆるキャン△ SEASON3』のモデル地。

劇中の施設名「畑薙荘」の看板に、期間限定で掛け替えられています。

大井川鐵道 井川線。

ダム建設のために生まれた、日本唯一のアプト式列車。90パーミルという、日本一の急勾配を登ります。

訪ねる前に ── 行き方と、持ち物のこと

最後に、これから関心を持たれた方へ、いくつか書き添えておきます。

まず大前提として、井川蒸溜所は、公式に見学ツアーを行っているわけではありません。

ここに書いたことは、あくまで私が体験させていただいたこと。

訪れた方全員に、同じことが同じように起こるとは限らない点を、どうかご了承ください。

そのうえで、行き方のこと。

訪ねられるのは、4月から11月ごろまで。

バー関係者でも、月に4回ほどしか足を運べません。

天候によっては、途中で引き返すことになる日も、少なくないそうです。

しかも、途中からは私有地。

自家用車では入れませんので、もし訪ねられるときは、くれぐれもお気をつけて。

持って行くと安心だったもの(私の場合)。

(落石のある区間用のヘルメットは、蒸溜所が用意してくださいました)

用意していただいたヘルメト

気軽には行けない、日本でいちばんの僻地にあるであろう蒸溜所。


出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。

「ウイスキーもラム酒も、造り手の想いに触れた時、もっと美味しくなる。」


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【この記事を書いた人】

谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社Little.m 代表取締役/オーナーバーテンダー

広島・流川で2006年からウイスキーとラムの専門店「Bar Little Happiness」を営む。国内外の蒸溜所を訪ね、造り手の話をコラム「ウイスキーとラムの手帖」に綴っている。広島市優良技能者。

「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」

【お店の情報】📍 Bar Little Happiness

広島市中区流川町5-14 Rolling流川 1F
月〜土 19:00〜24:30/日 19:00〜24:00(店主が蒸溜所へ旅に出る日はお休み)
ノーチャージ・予約不要

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