亀田蒸溜所訪問記②トライアンドエラーで導き出された「木桶発酵」の秘密
2026.1.31
電車を乗り継いで辿り着いた、新潟の地。
亀田蒸溜所訪問記②では、私がイベントで衝撃を受けた「あの味」の正体に迫ります。
蒸溜所の中へ一歩足を踏み入れると、そこには元製薬会社のMR(医薬情報担当者)という異色の経歴を持つ社長ならではの、驚くほど緻密な世界が広がっていました。

元製薬会社のMR、堂田社長が実践する「仮説と検証」のウイスキー造り。亀田蒸留所の緻密な設計図に、プロとして震えた瞬間
亀田蒸溜所のウイスキー造りを一言で表すなら、それは「仮説と検証の積み重ね」です。
文系出身ながら製薬業界でキャリアを積んだ社長は、科学論文を読み解き、理想の味を実現するための「コントロール群(比較対象)」を設けて比較検証するという、MR時代の思考法をそのままウイスキー造りに持ち込みました。
この徹底したトライアンドエラーこそが、新設蒸溜所とは思えない完成度の高さを支えています。
スコットランドまで足を運び、自ら導き出した「木桶発酵」の正解。ステンレスとの比較実験が証明した、亀田蒸留所の甘い余韻の秘密
蒸溜所の中で一際目を引くのが、ずらりと並んだ大きな木桶です。
実は創業時、発酵タンクを「木桶」にするか「ステンレス」にするか、社長は猛烈に悩んだといいます。
日本中、そして本場スコットランドまで足を運び、多くの蒸溜所を巡って意見を聞きましたが、返ってくる答えはバラバラ。
「それなら自分で作って試すしかない」と、木桶とステンレスを導入し、全く同じ条件で仕込んで味を比較するという大胆な実験を行いました。
その結果、導き出された答えは明確でした。
社長が求める「甘くて余韻のあるウイスキー」には、手間はかかるけれども木桶の方が圧倒的に合っていたのです。
こうして現在、亀田蒸溜所では全量が木桶仕込みとなっています。

マンゴーやパッションフルーツが弾ける「トロピカル」な衝撃。新潟の地で時間をかけて醸される、乳酸発酵がもたらす香りの魔法
発酵室に漂う香りを嗅いで、私はまた驚かされました。
ウイスキーのニューメイク(熟成前の原酒)といえば青りんごのような爽やかな香りが一般的ですが(私がそう思っているだけかもしれないが)、亀田のそれはマンゴーやパッションフルーツ、ピーチのような、濃厚な南国フルーツの香りでした。
この香りの秘密は、通常よりも長い発酵時間にあるそうです。
あえて時間をかけることで乳酸発酵を十分に促し、社長が欲しかった「複雑なフレーバー」を引き出しているのです。
さらに、酵母の量も標準より多めに投入することで、原酒にしっかりとした「厚み」を持たせています。

効率よりも「美しさ」を優先する。贅沢なミドルカットという「魔法のハサミ」が、亀田のウイスキーに宿す唯一無二の気品
「ウイスキーの品質の8〜9割は発酵で決まる」と断言する代表にとって、蒸留機は発酵で生まれた香味成分を切り取る「ハサミ」の役割です。
亀田では、このハサミの使い方が実に贅沢。
蒸留の過程で「ミドルカット」と呼ばれる、美味しい成分が凝縮された真ん中の部分を抜き出す際、その幅を意図的に狭く設定しています。
あえて効率を捨てて、雑味のない最高に美味しいところだけを切り取る。
このストイックな姿勢が、私を驚かせたあの「綺麗で柔らかい酒質」を生み出しているのです。

「熟成後も残る味の厚みと、長い余韻を最優先したい」。
その想いから生まれた原酒たちは、いま静かに熟成の時を待っています。
しかし、亀田の探求心はこれだけでは終わりません。
第3話では、さらに驚くべき「樽の実験」と、地域と共に歩む蒸溜所の未来についてお届けします。
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
【谷本からの補足】 この亀田蒸溜所に関する記事は、実際に現地を訪問した体験を基に執筆していますが、一部谷本の個人的な考察や解釈が含まれています。 一人のウイスキーLOVERの独り言としてお楽しみいただければ幸いです。
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【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社Little.m 代表取締役/オーナーバーテンダー
広島・流川で2006年からウイスキーとラムの専門店「Bar Little Happiness」を営む。国内外の蒸溜所を訪ね、造り手の話をコラム「ウイスキーとラムの手帖」に綴っている。広島市優良技能者。
「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
【お店の情報】📍 Bar Little Happiness
広島市中区流川町5-14 Rolling流川 1F
月〜土 19:00〜24:30/日 19:00〜24:00(店主が蒸溜所へ旅に出る日はお休み)
ノーチャージ・予約不要
🛒 遠方の方はオンラインショップからもお求めいただけます。