造り手は5人。焼酎蔵が手仕事で生むジャパニーズラム「アコウラム」の製造現場へ|指宿・大山甚七商店
2026.9.23
「スタッフには酷使させてしまうんですけど、クオリティ第一優先です」
蒸留器の前で、大山社長はそう話されました。
→ [前編:ジャパニーズラム「アコウラム」が生まれるまで。指宿・大山甚七商店を訪ねて]
前編では、鹿児島県指宿(いぶすき)市の大山甚七商店で、ジャパニーズラム「アコウラム(ACOU RUM)」が生まれるまでの話を書きました。
後編では、いよいよ蔵の中へ入ります。
見えてきたのは、驚くほど小さな規模で、驚くほど手間をかけている蔵の姿でした。

造り手は5人。社長も、その一人
大山甚七商店の造り手は、たった5人です。
焼酎も、スピリッツも、ラムも、この5人ですべて造っています。
営業も、外に出てのイベントも、この5人。
大山社長も、その一人です。
経営を担いながら、商品づくりは自分で手がけ、最終的なブレンドも自分で行っています。

東京農業大学で発酵と微生物を学び、酒類商社で「売る側」を経験してから蔵に戻ってきた人が、現場に立って造っている。
社長が造りを分かっているって、本当に大きいことだと思います。
最後は、人の手で
大山甚七商店では、1日に2,500キロの芋を仕込みます。
その芋を、全部、手で触って選別しています。
傷んだところ、よくないところを、一つひとつ手で外していく。
芋は野菜なので、置いておくと傷口から傷みが始まります。オフフレーバーになり得るものは、仕込みに一切入れない。
この選別には、今年80歳になる元工場長が、今も手伝いに来てくれています。
前編で書いた、10年間の休業中もただ一人蔵に残ってくれた方です。
定年した今も、「ここがいちばん大事」だと、芋の選別の時間だけは通ってくれているそうです。
正直、私はもっとざっくりやるものだと思っていました。
全部触るんですか、と聞いたら、答えは「全部触ります」。
しかも、それで終わりじゃないんです。
蒸し上がった芋にも1〜2人がついて、もう一度全部触って確かめる。
生の芋で分かること、蒸してみないと分からないこと。同じ品種でも、畑によって硬さも風味も違う。
その日に触って感じたことをもとに、翌日の蒸し方を微調整しているそうです。

大きな蔵では、なかなかできないやり方だと思います。
「ここまでやっているところは、ないかもしれない」と、大山社長も話していました。
麹は朝に手でほぐし、甕の中のもろみは目で見て発酵の進み具合を確かめる。

200年近く使われているという甕は、もうつくれる職人さんが日本にいないそうです。
アコウラムは、この手仕事の蔵で造られています。
父の車庫に置かれた、500リットルの銅の蒸留器
ラムの蒸留器が置かれているのは、蔵の一角の小さな建物。
もともとは、お父さまの車を入れる車庫だったそうです。

500リットル容量の、銅製の蒸留器。
最初はラムのためじゃなく、地元のハーブガーデンのハーブでジンを蒸留するために入れたものでした。
発注はコロナ禍の2020年。届いたのは2021年です。
一方、ラムの仕込みは1バッチ5,000リットル。発酵は焼酎用の大きなタンクで行います。
蒸留器は500リットルなので、1回目の蒸留を10回。
2回目はおよそ半分の量になるので5回。
1バッチのラムのために、約15回も蒸留しているんです。
しかも発酵タンクと蒸留器は別の建物。長いホースを引っ張って、もろみを運んでいます。
効率だけを考えれば、焼酎の蒸留器を使えばいい。実際に一度、試したそうです。
焼酎の蒸留は、もろみに蒸気を直接吹き込む「直接加熱」。
芋のもろみはドロドロで焦げやすいので、蒸気で薄めながら温めます。
一方、銅の蒸留器は外側のジャケットで温める「間接加熱」です。
「直接加熱だと、ひとつオブラートに包まれたような原酒になるんです。熟成もすごく遅くなるだろうなと」
だから、手間がかかっても銅の蒸留器で。
この話に、私は深く頷いていました。
ジャパニーズラムを飲んできて、どこか焼酎っぽさを感じるものが多いと思っていたからです。
銅はネガティブな香りを取ってくれる。ウイスキー好きの方に響くのは、きっとこっちの味わいです。
仕込み水は、山から来る蔵の井戸水。
原料も水も、すべて鹿児島のものです。


約200樽のラムが眠る熟成庫
熟成庫は、大山社長が蔵に戻った2017年に一から建てたもの。
潮風が当たるので、もう古い建物のような趣があります。

中には、約200樽。

「定番をずっと出すというよりは、気に入ったものを300本、500本と限定で出していきたい」
だから、いろいろな種類の樽に詰めているそうです。
テイスティングさせていただいた中で印象に残ったのが、ラフロイグのクォーターカスクに詰めた一樽。
2023年詰めで、まだ3年ほど。
ピートがぐっと来たかと思えば、そこから華やかに、フルーティーに開いていく。

暑い指宿は、熟成が早い。4年半ほどの熟成で、2割ほど目減りするそうです。
熟成に、正解はない。
だからこそ、「気に入ったものを出したい」という言葉が楽しみ!!

アコウラムのホワイトと、エイジドと、137本
現在のリリースは、ホワイトとエイジド。
ホワイトは、糖蜜で仕込んだ原酒と、鹿児島県産の黒糖で仕込んだ原酒を、別々に発酵・蒸留してからブレンドしたもの。
エイジドは黒糖ベースで、バーボン樽を中心に、シェリー樽とピート系の樽をほんの少し。
そして、世の中にはまだ出ていない一本があります。
指宿の糖蜜100%で蒸留し、樽で熟成させたシングルカスク。わずか137本。
サトウキビ農家さんたちのために詰めたものです。(リトハピにもあります!)
前編で、農家さんたちが未来の話をするようになったと書きました。
自分たちの糖蜜から生まれたラム、すごく嬉しかっただろうなー!!

丁寧なRum造り
「焼酎を諦めたから、ラムを造っているわけじゃない」
大山社長は、はっきりそう話されていました。
一つひとつの芋に手で触れる、焼酎蔵の手仕事がある。
その手仕事を、5人で守っている。
造ることも売ることも知っている社長が、自ら現場に立っている。
小さな蔵だからこそできる丁寧さが、このジャパニーズラムには詰まっていました。

ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる。
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
【谷本からの補足】 このアコウラムに関する記事は、実際に現地を訪問した体験を基に執筆していますが、一部谷本の個人的な考察や解釈が含まれています。 一人のラムLOVERの独り言としてお楽しみいただければ幸いです。
【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社Little.m 代表取締役/オーナーバーテンダー
広島・流川で2006年からウイスキーとラムの専門店「Bar Little Happiness」を営む。国内外の蒸溜所を訪ね、造り手の話をコラム「ウイスキーとラムの手帖」に綴っている。広島市優良技能者。
「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
【お店の情報】📍 Bar Little Happiness
広島市中区流川町5-14 Rolling流川 1F
月〜土 19:00〜24:30/日 19:00〜24:00(店主が蒸溜所へ旅に出る日はお休み)
ノーチャージ・予約不要
🛒 遠方の方はオンラインショップからもお求めいただけます。