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「イチローズモルトを救った蔵へ」安積蒸溜所訪問レポ①

2026.5.23
安積蒸溜所ヘッドディスティラーの黒羽さん


安積蒸溜所入り口

10数年前、ここに来たことがあります。

イチローズモルトのルーツを辿りたくて。

福島の知人に頼んで、アポを取ってもらって。今思えば、かなり強引だったと思います。

その知人が、車まで出してアテンドしてくれました。

食事もセットしてくださって。でも私には新幹線の時間があった。

この日の次の目的地は静岡で、中村社長と会う約束があったんです。

結局、食事は30分ほどでお暇してしまいました。

福島の滞在はわずか3~4時間ほど。

あの時は本当に申し訳なかったし、本当にありがとうございました。

安積蒸溜所社長に案内していただいて、ゲストルームでお話を伺いました。

写真も撮ったはずなのに、今となってはどこにいったのかわからない。

当時はまだ、写真をきちんと保存する習慣がありませんでした。

それが今でも悔やまれます。

帰り際、部屋の片隅に置いてあった古酒を買って帰りました。

あの頃はちょうど、安積蒸溜所が動き始めたばかりの2016年頃のこと。

最初の一滴を仕込もうとしていた、そのタイミングだったのかもしれません。

安積蒸溜所売店で見た古酒

笹の川酒造の歴史は、思っていたよりずっと深いところから始まります。

公式の創業は1765年ですが、山口家がこの土地で酒を仕込み始めたのは約300年前のこと。

猪苗代湖の南、舟津という場所から、現在の郡山へと移ってきました。

日本酒の蔵として長い歴史を持ちながら、ウイスキーとの出会いは戦争がきっかけでした。

終戦後、倉庫には軍用アルコールの在庫がありました。

外を見れば進駐軍がいる。

米不足で日本酒は造れない。

それならウイスキーを——という流れで取得したのが、1946年の東北最古のウイスキー製造免許です。

チェリーウイスキーという銘柄が生まれ、昭和の終わり頃には「北のチェリー、東の東亜、西のマルス」と並び称されるほど全国で売れていた時代もありました。

でも、1989年に市場が変わりました。

サッチャー政権の働きかけなど国際的な圧力を受けて、日本の酒税の級別制度が廃止されました。

2級ウイスキーの価格が上がって、消費者が焼酎に流れた。

市場が一気に縮んで、この蔵もウイスキーの製造を少しずつ縮小していきました。


その沈黙の時代に、この蔵がやったことがあります。

2003年、東亜酒造が羽生蒸溜所を手放すことになりました。

新しいオーナーがウイスキー事業から撤退を決めて、20年近く熟成してきた原酒が廃棄される話になっていた。それを惜しんだのが、肥土伊知郎さんです。

あちこちに引き取り先を探しましたが、断られ続けました。

ウイスキーが売れない時代に、他社の原酒を保管しようという蔵はなかった。

そこへ、笹の川酒造の社長が手を挙げました。

銅像

「それは業界の損失だ。長い時間をかけて熟成させたものを廃棄するのは、時間の損失だ。うちの倉庫を使いなさい」

羽生の原酒は福島の地で生き延び、2005年に「イチローズモルト」として世に出ました。

後にカードシリーズが約1.6億円で落札されるほどの価値を持つウイスキーになって、世界が日本のウイスキーに注目するきっかけのひとつになります。

この蔵がなければ、今の日本のウイスキーブームは少し違う形になっていたかもしれません。


その縁もあって、肥土さんは安積蒸溜所の立ち上げに力を貸します。

秩父第一蒸溜所と同じ仕様のポットスチルを導入して、2016年に本格稼働を開始しました。

今、製造を担っているのは地元・福島出身の黒羽祥平さんをはじめとするスタッフたちです。

醸造もブレンドも、同じメンバーが続けています。

蒸溜所というのは人が動きやすい世界ですが、ここのチームはずっと同じ場所でウイスキーを仕込み続けています。

安積蒸溜所ヘッドディスティラーの黒羽さん

「地元から、日本一を目指したい」

ヘッドディスティラー黒羽さんのその言葉が、印象に残っています。

あの2016年頃の訪問から約10年。

今は敷地内に約1,600樽が眠っていて、湖南町の廃校を使った第三貯蔵庫も建設中、さらに第四熟成庫の構想まであると聞きました。

あの頃と同じ場所が、こんなふうに変わっていくのを見るのは、なんだか不思議な気持ちでした。


「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」

出逢いは必然。
Rum&Whiskyの世界へようこそ


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【この記事を書いた人】

谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社Little.m 代表取締役/オーナーバーテンダー

広島・流川で2006年からウイスキーとラムの専門店「Bar Little Happiness」を営む。国内外の蒸溜所を訪ね、造り手の話をコラム「ウイスキーとラムの手帖」に綴っている。広島市優良技能者。

「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」

【お店の情報】📍 Bar Little Happiness

広島市中区流川町5-14 Rolling流川 1F
月〜土 19:00〜24:30/日 19:00〜24:00(店主が蒸溜所へ旅に出る日はお休み)
ノーチャージ・予約不要

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