「黄色いフルーツがいるよ」── 新道蒸溜所セミナーで世代を繋ぐ蒸溜所の話を聞いた話
2026.5.22
「黄色いフルーツがいるよ」
先日、福岡県朝倉市の新道蒸溜所のウイスキーセミナーに参加しました。
篠崎社長とは3年くらい前に、夜中に一緒につけ麺を食べたのを思い出しました。
夜中でもすごく紳士で、従業員さんとウイスキーの話をされていたのを思い出しました。
セミナー中、一番印象に残ったこと。
社長がふと、5歳の娘さんの話をされました。
「うちの娘、まだ5歳なんですけど、なんかちゃんとしたフルーツの香りがするとか言うんですよ。黄色いフルーツがいるよ、って」
会場が、和みました。
5歳の女の子が、お父様の隣でウイスキーを嗅いで、「黄色いフルーツ」と表現する。 マンゴーみたいな、桃みたいな ── 大人が必死に言葉を探す香りの世界を、彼女はすでに自分の感覚で掴んでいる。
社長は笑いながら、と仰っていました。
なぜなら、ご自身も子どもの頃、お父様にウイスキーやワインの香りを嗅がせてもらって育ったから。 そして「いつか自分でウイスキーやワインを造りたい」とずっと聞かされてきた。
その影響が、今のご自身を形作っているのだ、と。
お父様から、社長へ。 社長から、5歳の娘さんへ。
香りの記憶は、世代を超えて受け継がれていくのだなと、思いました。
娘さんが20歳になる頃、香りだけではなく、初めて味わうファーストウイスキーが楽しみですね!

「林業もやっています」
篠崎新道蒸溜所を運営する株式会社篠崎は、200年ほど前から日本酒、100年ほど前から林業、40年ほど前から麦焼酎や甘酒と、世代を重ねて事業を広げてこられた会社です。
朝倉市の隣、大分県日田市の標高約750mの土地。
建築用の杉や檜が中心だったけれど、最近はミズナラの植林にも取り組んでいる 。
次の世代に向けて、新しい木を植えているのだ、と。
ウイスキーの樽は、何十年もかけて育った木からしか生まれません。
今日植えたミズナラが、樽として使えるサイズに育つのは、何十年も先のこと。
自分が生きているうちには、たぶん見届けられない。
これは、ウイスキーの世界観そのものだ、と思いました。
世代を超えて紡いでいく。
そういう世界観がわたしは大好きです。

「科学的根拠に基づいた製造を」── お父様からの言葉
社長がもうひとつ、お父様から繰り返し言われてきた言葉として紹介されたのが、「科学的根拠に基づいた製造法をやりなさい」でした。
たまたま美味しいものができたのではダメだ、と。
きちんとした裏付けに基づいて、品質も安全性もお客様に納得していただける商品をつくりなさい、と。
その理念は、社長のお師匠さんとのご縁にも繋がっています。
お師匠さんは、ニッカウヰスキーで技術開発センター長を長年務められた先生。
乳酸菌後発酵の論文を世界に出された方で、社長は以前からそのお名前を存じ上げていたそうです。 (名前を失念しました。知っている人がいたら教えてください)
ある日、博多のバーにふらりと立ち寄ったら、そこが業界の技術者の方々が集まる場で、翌月にはちょうどその先生のセミナーが予定されていた。
そんな出逢い方をされていました。
偶然のような必然のような、こういうご縁を結ばれる方は、間違いなくこの世界に呼ばれている人だと、私は思います。
今回のセミナー本体は、正直に申し上げると、私には専門的すぎて、すべてを聞き取ることはできませんでした。
酵母の選定、発酵時間、蒸留のカットの判断 ── 専門用語が飛び交い、製造に関しての知識が甘いわたしには難解でした。
でも、ひとつだけ確かに伝わってきたことがあります。
それは、本当に深く研究されている、ということ。
「独創性の追求」を経営理念に掲げ、他社がやらない領域にまで踏み込み、科学で裏付けながら一つひとつ確かめていく。 そんな誠実さに溢れていました。

世代を超えて繋いでいくもの
ウイスキーは、世代を超えるものです。
樽を造る木は、誰かが何十年も前に植えたもの。
樽に詰めたお酒も、何年・何十年と眠ってようやく一本になる。
それを飲み手に届ける頃には、植えた人も詰めた人も、もうこの世にいないかもしれない。
林業も、同じです。
今日植えたミズナラが、樽として使えるサイズに育つのは、自分の代では見届けられないかもしれない。
それでも、次の世代のために、植えると、篠崎社長はおっしゃっていました。
5歳の娘さんが「黄色いフルーツがいるよ」と言える感覚は、お父様から社長へ、社長から娘さんへと、香りの記憶として受け継がれていく。
技術も、理念も、香りの感覚も、そして木そのものも。
新道蒸溜所には、世代を超えて繋がっていくものが、いくつも重なって存在していました。

12月、蒸溜所を訪ねます
こうして真摯にお仕事に向き合われている姿に直に触れて、私の中で新道蒸溜所への信頼は確かに高まりました。
セミナーが終わったあと、ウイスキーとは関係ない話で恐縮ですが質問に行きました。
その席で、12月に蒸溜所を訪問させていただくお約束をいただいています。
朝倉の地で、山の木が育つ場所で、社長と再びお会いできるのが今から楽しみです。
その時にまた、ここに書けたらと思っています。
「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
出逢いは必然。
Rum&Whiskyの世界へようこそ
この記事を書いた人
谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
世界中の蒸溜所を自ら訪問し、造り手と直接対話した一次情報を持つ、現場主義のバーテンダー。バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!