宮城峡蒸溜所レポート② 「ニッカ」という名前の、ありえない偶然──新川と竹鶴政孝の大騒ぎ
2026.4.15
Bar Little Happiness(広島・流川)・谷本美香コラム
突然ですが、クイズです。
「ニッカウヰスキー」という社名の由来を、ご存知ですか?
ウイスキー好きの方なら、もしかしたら知っているかもしれません。
でも、もう一つ先の話を知っている人は、かなり少ないと思います。今日はその話をさせてください。
(2倍速推奨↓)
社名の由来から、整理します。
竹鶴政孝さんが余市でウイスキー造りをはじめた頃、蒸溜所からウイスキーが出来上がるまでには何年もかかります。
売るものが何もない創業当初、北海道で盛んだったりんごを使ってジュースやジャムを作って販売していました。
その時の会社名が「大日本果汁株式会社」。
大日本の「日」と、果汁の「果」。
この二文字を合わせて「ニッカ」。それが社名の由来です。
ここまでは、わりと知られている話です。
ここからが、あまり知られていない話です。
宮城峡蒸溜所の敷地に入ると、駐車場の奥に川が見えます。
広瀬川と、もう一つの川。
この二つの清流が合流する場所に、蒸溜所は建っています。


仕込み水を取っているのは、その川の地下3.5メートルから汲み上げた伏流水です。
一般的な水道水の硬度が約50、市販のミネラルウォーターでも30ほどある中、この水はなんと硬度20という極めて柔らかい軟水です。
この「究極の軟水」が、宮城峡のシルキーな口当たりと、華やかな香りを生んでいます。
その川の名前が、「新川(にっかわ)」。
「にっかわ」。
そう、「ニッカ」と同じ響きを持つ川です。
政孝さんはこの事実を、工場の建設が始まってから知ります。
近隣に住むおじいさんから「この川は何という名前ですか」と聞いて、初めて知ったのです。
その瞬間の政孝さんの反応が、なんとも人間らしくて好きです。
「わしは悲しい。誰かに裏切られた!ニッカがこの土地を買うのを知っていて、川の名前を教えなかった犯人がいるはずだ!」
大騒ぎしたそうです。
もちろん、これは完全な偶然です。
「ニッカ」という社名は大日本果汁からきていて、「新川(にっかわ)」はずっとそこにあった川の名前。
政孝さん本人も、川の名前を知らずに土地を買っていました。
でも政孝さんは、「誰かが仕組んだに違いない」と言って大騒ぎした。
この話を聞いたとき、思わず笑ってしまいました。と同時に、少し鳥肌も立ちました。
偶然にしては、出来すぎている。

実は、私自身にも似たような話があります。
今回の宮城峡見学、広島から飛行機で仙台に向かいました。
仙台空港に着いて、さてここからどうやって蒸溜所まで行こうかと、バスや電車を調べていた時のことです。
「谷本さん?!」
顔を上げると、広島・桜尾蒸溜所のメンバーでした。
え、なんで。なんでここに。
東北の空港で、広島の蒸溜所の人と鉢合わせする確率って、いったいどのくらいなんでしょう。
お互い目が点になりながら、でも次の瞬間には笑っていました。
桜尾蒸溜所とは長い縁があります。
広島生まれ、広島育ちの私が、勝手に激推し活しながらその魅力を語り続けてきました。
そしてその想いはいつも、ちゃんと届いてきた。
やっぱりこの縁は、赤い糸で結ばれているんだと思います。
切れない、引き合う、運命の糸💛
お互い、宮城峡を目指していました。
偶然が重なって、蒸溜所まで一緒に乗せてもらうことになったのです。
広島の蒸溜所の人たちと、仙台の蒸溜所へ向かう車の中。
窓の外に東北の山々が流れていく。
なんだかとても、満ち足りた時間でした。
「出逢いは必然」というのが、私が大切にしていることです。
20年カウンターに立っていると、本当にそう思う瞬間が何度もあります。
偶然のように見えて、実は必然だったと後から気づく出逢い。
人でも、お酒でも、場所でも。
政孝さんも、この川に呼ばれたのかもしれない。
そして私も、あの空港で、呼ばれたのかもしれない。
硬度20の軟水が、宮城峡のあの華やかさを生んでいます。
その水は今日も、地下3.5メートルから静かに汲み上げられています。
そしてそれがニューポットになり、樽に入り、何年もかけて琥珀色に変わっていく。
「実に素晴らしい水だ」。
政孝さんが飲んだあの一口から、すべては始まりました。
▶️次回は、この蒸溜所の「見えない美しさ」の秘密、電線を地中に埋めた男の話!
※この記事は、実際に宮城峡蒸溜所を訪問した際に見聞きしたことと、元々知っていたこと、新たに調べたことをもとに構成しています。一部、谷本美香の個人的な見解が含まれます。
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
「ウイスキーもラムも、作り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto) 株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。
2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。
• 多店舗経営: 本店に加え、カジュアルに愉しめる姉妹店「Rum&WhiskyハイボールBar」を直営。
• オンライン事業: 全国へ厳選ボトルを小瓶で届けるオンラインショップ運営。
• 執筆・情報発信: 専門コラム【ウイスキーとラムの手帖】を執筆。
・創業ストーリー:22歳、ワーキングプアだった私が見つけた光
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!