宮城峡蒸溜所レポート③ 雀が止まれない空──電線を地中に埋めた男の美学
2026.4.15
Bar Little Happiness(広島・流川)・谷本美香コラム
宮城峡蒸溜所に来て、何かが違う、と感じているのに、最初はその理由がわかりませんでした。
空が広い。
山が見える。
レンガの建物が緑に映えている。
景色がいい、とは思う。
でもなぜこんなに気持ちいいのか、しばらく歩いてから気づきました。
….

電線が、一本もない。
雀が止まれる場所が、この広大な敷地のどこにもないのです。
ガイドの坂本さんが教えてくれました。
「皆さん、ここに一歩足を踏み込んだ瞬間から、見えていないものがあるので景色がいいという錯覚に陥っているんです」と。
これは意図された美しさ。
竹鶴政孝さんが宮城峡蒸溜所の建設にあたって、設計者に出した指示が四つあります。
一つ目。電線はすべて地中に埋めること。
二つ目。自然の起伏や傾斜は削らずに残すこと。
三つ目。樹木を必要以上に伐採しないこと。
四つ目。建物は周りの緑に映える赤いレンガにすること。

工事関係者は頭を抱えたそうです。
効率を考えれば、地面を平らにして電線を張るのが正解です。
でも政孝さんはそうしなかった。一ミリも譲らなかった。
なぜここまでこだわったのか。
政孝さんはこんな言葉を遺しています。
「よいウイスキー造りにトリックはない。自然を尊重する素直な心がすべての土台だ」と。
ウイスキーは人間が造るものではない。
自然が、長い時間をかけて育むものだ。
その信念が、この蒸溜所の設計にまで貫かれていました。
メインストリートを歩くと、正面の奥にゴリラの頭の形をした鎌倉山がどっしりと見えます。
政孝さんはこの山を「借景」として取り込むために、工場の配置さえも計算していました。
電線がないからこそ、その景色が成立している。
山からの霧や靄が蒸溜所を包み込み、樽の中の原酒に森の息吹を吹き込んでくれる。
美しさと、機能が、一致している場所です。

この蒸溜所の敷地は18万平方メートル。
東京ドームが四つすっぽり入る広さです。
その全てに電線が通っていない。古い建物は今もレンガ造りのままです。
自然の起伏は壊されていない。
政孝さんが置いていった「置き土産」が、何十年経った今もそのまま残っています。
私は広島で20年、限られた空間でお店を守ってきました。
空間に何を込めるか、ということをずっと考えてきた。
宮城峡蒸溜所を歩きながら、竹鶴さんの「空間への哲学」の深さに、ただただ圧倒されました。
見えないものが、景色を作る。
電線一本ない空を見上げながら、そのことを強く思いました。
▶️次回は、余市と宮城峡がなぜ「真逆」に設計されたのか、ポットスチルの形の秘密!!
※この記事は、実際に宮城峡蒸溜所を訪問した際に見聞きしたことと、元々知っていたこと、新たに調べたことをもとに構成しています。一部、谷本美香の個人的な見解が含まれます。
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!