宮城峡蒸溜所レポート④ 「バルジ」の秘密──ふくらみがなければ、宮城峡の華やかさは生まれなかった
2026.4.15
Bar Little Happiness(広島・流川)・谷本美香コラム


蒸溜棟の扉を開けました。
整然と並ぶ、巨大な銅色の釜たち。
正直、写真は撮りにくい空間でした。
でも見上げたとき、その存在感が一気に迫ってきました。

天井や側面の窓から光が差し込む構造になっていて、その光を受けた銅色がじわっと輝いている。
見上げるからこそ、このポットスチルの大きさと美しさが、全身で感じられる。
そういう空間でした。
8基並ぶポットスチルをよく見ると、一基一基の輝きが違いました。
一番下のボディ部分はくすんだ銅色のまま、でもそこから上のバルジとネックだけが金ピカに光り輝いているものが何基かある。

古い部分と新しい部分が、フランジ(継ぎ目の金属のリング)でしっかりと繋がれて、一つの釜として立っています。
全部を作り直すのではなく、傷んだ部分だけを補修しながら使い続ける。
その姿に、宮城峡の「守りながら、進む」という哲学を見た気がしました。
このポットスチルの形には、大きな意味があります。
宮城峡のポットスチルは「バルジ型」と呼ばれる形をしています。

胴体の下部がポコンと丸く膨らんでいる、あの部分です。
世界中にさまざまな形のポットスチルがありますが、余市のポットスチルと比べると、その違いは一目瞭然です。
余市は「ストレートヘッド型」、上から下までなだらかでシンプルな形。

対して宮城峡は、あの丸い膨らみが全てを変えています。
この「膨らみ」こそが、魔法の装置です。
加熱された蒸気がこの膨らみの中で対流します。
重くて雑味になりやすい成分がここで引き返し、洗練されたエッセンスだけが上へと昇っていく。
その結果、宮城峡ならではのリンゴや洋梨を思わせる、華やかで繊細な香りが生まれます。
熱の加え方も、余市とは真逆です。
余市は石炭による直火蒸溜。1,000度の高温で、一気に炊き上げます。
力強く、スモーキーで、重厚な原酒が生まれます。
宮城峡はスチームによる間接加熱。
130度でじっくりと、優しく、語りかけるように蒸溜していきます。
急がない。焦らない。
その「優しさ」が、あのエレガントな香りを生んでいます。
ポットスチルの形と、熱の加え方。
この二つの違いが組み合わさって、余市と宮城峡は「コインの裏表」のような、全く異なる個性を持つ原酒を生み出しています。
リトハピのカウンターで宮城峡を注ぐとき、グラスの上にふわっと広がるあの華やかな香りがあります。
あれは、このバルジの曲線から生まれていたのか。
そう思うと、目の前のウイスキーが、まるで意思を持った生き物のように感じられました。
形が、香りを決める。設計が、味を決める。
ウイスキーは、造り手の想いがカタチになったものだと、改めて思いました。
ところで、このポットスチルの首元に、しめ縄が巻かれているのをご存知でしょうか。
世界中の蒸溜所を見渡しても、ポットスチルにしめ縄が巻かれているのはニッカウヰスキーだけです。
西洋の蒸溜器に、日本の祈りが宿っている。この話は、また別の回で詳しく書かせてください。
次回は、余市と宮城峡がなぜ「真逆」に設計されたのか。竹鶴政孝さんの壮大な目論見!!
※この記事は、実際に宮城峡蒸溜所を訪問した際に見聞きしたことと、元々知っていたこと、新たに調べたことをもとに構成しています。一部、谷本美香の個人的な見解が含まれます。
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
「ウイスキーもラムも、作り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
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【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社Little.m 代表取締役/オーナーバーテンダー
広島・流川で2006年からウイスキーとラムの専門店「Bar Little Happiness」を営む。国内外の蒸溜所を訪ね、造り手の話をコラム「ウイスキーとラムの手帖」に綴っている。広島市優良技能者。
「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
【お店の情報】📍 Bar Little Happiness
広島市中区流川町5-14 Rolling流川 1F
月〜土 19:00〜24:30/日 19:00〜24:00(店主が蒸溜所へ旅に出る日はお休み)
ノーチャージ・予約不要
🛒 遠方の方はオンラインショップからもお求めいただけます。