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焼酎蔵が造るジャパニーズラム「KOMASA RUM -Aged-」ができるまで|日置蒸溜蔵

2026.9.07

「どうして、このラムはエイジドなんですか?」

小正醸造の日置蒸溜蔵を訪ねて、私が最初に聞きたかったのは、このことでした。

鹿児島県日置市日吉町。

ここから2キロほどのところには、嘉之助蒸溜所があります。

見学に来る方は、きっとウイスキーの話をすることが多い。

でも、この日、私が聞きたかったのはラムの話でした。

2026年9月10日、小正醸造から全国発売されるKOMASA RUM -Aged-

私はずっと、このラムは嘉之助から出るものだと思い込んでいました。

ところがリリースを見てみると、書いてあるのは「KOMASA」。

しかも、その後ろには「Aged」。

調べれば調べるほど、小正醸造について知りたくなっていきました。

今回、日置蒸溜蔵を訪問し、小正醸造の小正倫久社長とマーケティング本部の菊地さんにお話を伺いました。

現場ではお二人から、焼酎蔵としてのものづくりや、ラムをつくることになった背景、実際の設備について、たくさんの話を聞かせていただきました。

途中、ラム製造を担当する松元さんにも、蒸留について少しお話を伺うことができました。

最初は「ラムの話」を聞きに来たはずなのに、気づけば焼酎の話になり、樽の話になり、蒸留器の話になっていました。

なぜ焼酎蔵がラムをつくるのか。

なぜ最初から「Aged」なのか。

そして、なぜ6年なのか。


KOMASA RUM -Aged- のスペック|6年熟成のジャパニーズラム

公式テイスティングノート

香り:潮風、リンゴのコンポート、バニラ
ボディ:かんろ飴、ふくれ菓子
フィニッシュ:オーク、シナモン、ほのかな薫香

まず、驚いたのは6年です。

6年。

日本のクラフトラムでは、蒸留した原酒をそのままホワイトラムとしてリリースするのがほとんどです。

だからこそ、最初から6年熟成。

しかも、ラベルには「6年」と書かれていません。

理由を聞くと、今後どれだけの人が注目してくれるかは、まだ分からない。

ここで年数を刻んでしまうと、前後できなくなる。

在庫の状況によっては、これから年数が伸びていくこともある。

なるほど。

「6年熟成だから売る」という考え方ではないんです。

今あるものが6年だった。

そして、これから先、年数に縛られないようにした。


なぜ廃糖蜜なのか|一番最初のラムに敬意を

そして、もうひとつ気になったのが、このラムの原料です。

廃糖蜜。

「なぜ、廃糖蜜?!」

ここから、ラムの歴史の話が始まりました。

ラムと聞くと、サトウキビを思い浮かべる方が多いと思います。

最近の日本のクラフトラムを見ていると、サトウキビの搾り汁や、それを煮詰めたものなど、原料そのものの個性を出そうとするものも多い。

その中で、小正醸造が選んだのは廃糖蜜でした。

砂糖をつくる過程で残るものです。

ラムの歴史をたどっていくと、砂糖の歴史と切り離すことができません。

大航海時代以降、ヨーロッパの国々がカリブ海などでサトウキビを栽培し、砂糖を生産していった。

その背景には、アフリカから多くの人々が奴隷として連れてこられた歴史があります。

そして、砂糖をつくる過程で残った廃糖蜜から、酒がつくられるようになった。

ラムという酒の背景には、そういう悲しい歴史があります。

奴隷貿易についてのブログ(後半部分をお読みください)

この話を詳しくしてくださったのが、菊池さんでした。

菊地さんは、ラムをつくるにあたって、その歴史を調べていました。

そして、原料を選ぶときに出てきたのが、

一番最初のトラディショナルラムに敬意を

という考え方でした。

ここで、私の中の「トラディショナル」の意味が変わりました。

単に「昔ながらの製法」ということではない。

ラムがどこから来た酒なのかを知ったうえで、その一番最初の形に敬意を払う。

小正醸造は、そこからラムを始めたんです。


2020年、酵母が来なかった|黒糖焼酎酵母で仕込んだラム

原料が決まった。

では、次は発酵です。

ここでも、予定通りにはいきませんでした。

2020年。

いよいよ仕込みという段になって、コロナの影響で、オーストラリアから輸入する予定だった酵母が直前に来なくなった。

さあ、どうするか。

急遽、鹿児島で何か活かせるものはないかと探した。

そこで出てきたのが、黒糖焼酎に使われている酵母でした。

ラムのために海外から取り寄せるはずだった酵母が来なくなって、結局、鹿児島の焼酎に使われていた酵母でラムをつくることになった。

ラムをつくろうとしていたら、焼酎が出てきた。

そして、発酵の時間にも試行錯誤がありました。

海外のラムでは、早いものだと24時間。

48時間から72時間というのが、ひとつの目安になります。

一方、焼酎は8日から10日ほど。

では、このラムはどうするのか。

結果は、8日間でした。

焼酎で培ってきた発酵の考え方を、ラムに持ち込んだ。

バーテンダーにもテイスティングしてもらい、この長い発酵の結果として、フルーティーなエステルの香りが出ているという評価をもらったそうです。

私が実際に飲んだときに感じた爽やかさ。

その一端は、ここにあるのかもしれません。

(日置蒸留蔵の仕込み水・硬度40)

日置蒸溜蔵を歩く|ラムも、ここのタンクでつくりました

実際の製造現場も見せていただきました。

ちょうどサツマイモの仕込みが始まる直前。

構内は広く、建物がいくつも分かれています。

外に出ると、

紫外線がやばい。

日陰のない道を歩いて、次の建物へ向かいます。

途中、積み上げられたサツマイモの袋が目に入りました。

「これ、一袋500キロです」

500キロ。

そして、袋をよく見ると、ひとつひとつに契約農家さんの名前が印刷されています。

痛みが多ければ、その農家さんにフィードバックできる。

選別する人も、今、自分が誰の芋を扱っているのかが分かる。

平成18年頃には、100%顔が見える状態になったそうです。

ラムを見に来たのに、完全に焼酎の話になっています。

でも、ここからがさらに面白かった。


土を食べる農家さん

土づくりに力を入れている農家さんは、土を食べるのだそうです。

土を少し口に入れる。

そうすると、何が足りないのかが分かる。

「土を食べるんですか?」

思わず聞き返しました。

でも、つくっているものが酒なら、その原料が育つ土まで見ている。

そんな話を聞きながら、焼酎がどこから始まっているのかを少しずつ知っていきました。


鼻の中まで黒くなる

さらに、麹の話を聞きました。

焼酎には黄麹、黒麹、白麹があります。

鹿児島の暖かい気候では、泡盛と同じ黒麹が使われてきました。

雑菌が繁殖しにくいからです。

ただ、黒麹には大変なところもある。

蔵が黒くなる。

そして、

作業する人の鼻の中まで真っ黒になる。

アレルギー反応で高熱が出る人もいる。

そんな中、突然変異で真っ白な麹が出てきた。

それを繁殖させていったのが白麹です。

「他の蔵元さんの代表銘柄を見ると、白麹の焼酎が多いです。それはこれの所以です」

私は、この話がすごく印象に残りました。

新しい麹が生まれたことで、焼酎のつくり方も変わっていった。

働く人の身体のために、麹が変わっていった。

そんな歴史を、私は初めて知りました。


一次仕込みのタンクの前で、今度はラムの話に戻ります。

米麹と水と酵母を入れて、酵母菌を増やす。

焼酎のためにつくられた設備です。

そのタンクを前にして、

「ラムも、ここのタンクでつくりました」

と言われました。

焼酎をつくっている場所で、ラムもつくられている。

この日、何度も感じたことです。


日置蒸溜蔵の蒸留器は7基|出口が4つある蒸留機

木樽のものも含めて、蒸留器が7基あります。

横型のもの。

減圧蒸留用のもの。

それぞれ目的が違います。

中でも私が驚いたのが、出口が4つある蒸留器でした。

蒸気になった成分を、いろいろな場所で回収できる。

つまり、香りの特徴を狙って拾っていける。

そして、もうひとつ。

木樽の蒸留器。

これは、日本で作れる方が一人しかいないのだそうです。

ここで、途中からラム製造を担当する松本さんにも、少しお話を伺いました。


「蒸留器が好きなので」

松元さんは、ラム製造を担当されている方です。

種子島の製糖会社が、ラムをつくりたいとなったとき、その立ち上げに技術指導に行かれていたそうです。

2週間ほどのサイクルで種子島へ通う。

私は、少し意地悪な質問をしてみました。

「技術を教えて、嫌じゃないんですか?」

すると、

「その蔵の蒸留器だったり、造りで全然変わるから、同じ味には、なかなかできないんですよ」

と。

なるほど。

そして、なぜそこまでやるのかと聞いたら、

「蒸留器が好きなので」

と笑われました。

なんだ、それ(笑)。

理由がシンプルすぎる。

でも、その言葉を聞いたら、妙に納得してしまいました。

(とにかく、この蔵は、とても雰囲気が良い。のんびり時間が流れていて、みんな笑顔!)

「日置ポットスチルって、どれなんですか?」

蒸留室で、もうひとつ聞きたかったことがあります。

嘉之助蒸溜所から出ている「嘉之助 HIOKI POT STILL」。

この「HIOKI」は、この日置のことです。

原酒は、ここでつくられています。

では、あのウイスキーの原酒をつくっている蒸留器は、どれなんですか?

聞いてみました。

返ってきた答えは、

「ラムの蒸留器と一緒です」

あのウイスキーの原酒と、このラム。

同じ蒸留器から生まれている。

私は、少し頭が混乱しました。

ずっと私は、

嘉之助=ウイスキー。

小正=焼酎。

そんなふうに分けて考えていたんです。

でも、実際に蔵の中を歩いてみると、そんなにきれいには分かれていない。


さらに、もうひとつ聞きました。

あの木樽の蒸留器でも、ウイスキーを試しているそうです。

「どこかでお披露目ができたらなって」

それを聞いて、

「それ、絶対に飲みたいです!」

と言っていました。


いろいろ、やりすぎじゃないですか?

日置蒸溜蔵では、焼酎をつくる。

ウイスキーもつくる。

ラムもつくる。

ジンもつくる。

リキュールも梅酒も、ノンアルコール焼酎も。

「いろいろやりすぎじゃないですか?」

と聞きました(笑)。

実際に、社内でも「ちょっと多すぎる」という認識はあるそうです。

でも、お話を聞いていると、ただ手を広げているわけではない。

扱う原酒が増えれば、ブレンダーの引き出しも増える。

ひとつの酒で覚えたことが、別の酒をつくるときに使える。

ラムで覚えたことが、ウイスキーにつながる。

焼酎で積み上げてきた樽の知識が、ラムにも使える。

一見すると遠回りに見えることが、後になって武器になる。

経営って、こういうところが面白いと思います。

そのときは正解かどうかなんて分からない。

何年も経ってから、

「あれをやっておいてよかった」

となることがある。

6年熟成のKOMASA RUMも、そういう積み重ねの中にあるのだと思います。


「嘉之助の樽を入れれば、売りやすいですよね」

ここで、私はもうひとつ、意地悪な質問をしました。

「嘉之助の名前を使えば、めちゃくちゃ売りやすいじゃないですか」

だったら、ラムの構成原酒に嘉之助の樽を使って、

「嘉之助の樽を使ったラムです」

と言えばいい。

ウイスキーファンには、きっと分かりやすい。

私なら、売ります。

いや、

売りたいです(笑)。

でも、返ってきたのは、そういう話ではありませんでした。

それぞれのブランドには、それぞれの立ち位置がある。

売れるから入れる、ではない。

私は、ここにKOMASA RUMとしての意志を感じました。

嘉之助の名前を借りるのではなく、KOMASA RUMとして出す。


「熟成の小正」|米焼酎の貯蔵樽をリチャーして使う

そして、最初の疑問に戻ります。

なぜ、最初から6年熟成なのか。

日本のクラフトラムでは、ファーストリリースは、ホワイトラムがほとんどです。。

だからこそ、この6年が気になりました。

小正醸造には、樽熟成の歴史があります。

1957年。

二代目の小正嘉之助さんが、日本で初めて米焼酎を樽で寝かせました。

そこから生まれたのが、メローコヅルです。

それから69年。

1957年から続いてきた樽熟成。

小正醸造にとって、樽熟成で出せるタイミングを虎視眈々と狙っていたと言います。


6年熟成なのに、軽やかだった|KOMASA RUM -Aged- を飲む

そして、実際にテイスティングさせていただきました。

とにかく、爽やか。

6年熟成と聞いたら、もっと丸くて、重いものを想像しますよね。

私もそうでした。

ところが、口に入った瞬間の輪郭は軽やかです。

潮風。

リンゴのコンポート。

バニラ。

かんろ飴、ふくれ菓子。

そして、オーク、シナモン、ほのかな薫香。

6年という時間を感じさせながら、重たくなりすぎない。

強い甘みが前面に出ているラムではないから、いろんなアレンジが出来そう!

あと、ラベルがすごく可愛い!


ラムを見に来たはずが|ジャパニーズラムのこれから

今回、このブログを書くのに、いつもの何倍も時間がかかりました。

私はこの日、ラムを見に来たんです。

焼酎は私の守備範囲外。

だから、帰ってからも調べることがたくさんありました。

ラムの記事を書くために訪問したのに、焼酎を調べないと記事が書けない。

ものすごく時間がかかりました。

でも、途中で気づきました。

これも、小正醸造がやろうとしていることなんだ、と。

全部の原点は焼酎。

ウイスキーやラムを入口に興味を持った人が、日置蒸溜蔵まで来る。

そこで、焼酎のことも知ってもらう。

完全に、してやられました。

でも、こんなに気持ちのいい「してやられた」は、なかなかありません。



この日の写真は、ほとんどありません。

どこへ行っても、丁寧に説明してくださる。
あまりに丁寧なので、カメラを構えるタイミングがない。

「ここでシャッターを押したら失礼かな」と思っているうちに、次の話が始まる。

そして、また聞き入ってしまう。

気づいたら、次のアポイントの時間が迫っていました。

——取材者として、完全に敗北しています(笑)。

でも、帰ってきてから改めて思いました。

お酒はひとつずつ、別々に存在しているようで、実はそうではないんだな、と。

ひとつのお酒をつくってきた時間が、次のお酒へ渡っていく。

この蔵で長い時間をかけて積み重ねてきたものが、形を変えながら、また次のお酒になっていく。

そう思うと、KOMASA RUM -Aged-も、突然ここに現れたラムではない気がします。

これまでこの蔵で積み重ねてきたものの、その先にある一本。

だから、発売したら広島のカウンターで、そんな話をしながらお出ししたいと思います。

「これ、焼酎蔵がつくったラムなんですよ」

そこから、樽の話をして。

蒸留器の話をして。

「実は、このラムの蒸留器、嘉之助 HIOKI POT STILLと同じなんです」

なんて話をしながら。

ラムの話をしていたはずなのに、気づけばウイスキーの話になっている。

そんなふうに、一本のお酒から話が広がっていくのも、私は大好きな時間です。

KOMASA RUM -Aged-は2026年9月10日、全国発売です。


ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる。

出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。


【谷本からの補足】 この小正醸造に関する記事は、実際に現地を訪問した体験を基に執筆していますが、一部谷本の個人的な考察や解釈が含まれています。 一人のラムLOVERの独り言としてお楽しみいただければ幸いです。


この日の他の記事

→ 「焼酎を隠すくらいなら、やらない方がいい」|小正醸造 五代目に聞いた
→ ウイスキーを好きになった場所は、広島だった|嘉之助蒸溜所へ

📍 Bar Little Happiness

広島市中区流川町5-14-1F

月〜土:19:00〜24:30 / 日:〜24:00

(最終入店・約1時間前)

定休日:ほぼ年中無休

ご予約・お問い合わせは、公式LINEから🥃

🔗 オンラインショップ:https://shop.little-happiness.jp/

この記事を書いた人

谷本 美香(Mika Tanimoto)

株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー

広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。

世界中の蒸溜所を自ら訪問し、造り手と直接対話した一次情報を持つ、現場主義のバーテンダー。バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。