嘉之助蒸溜所レポート・メローなウイスキーの秘密
2026.9.10
嘉之助蒸溜所・メローなウイスキーの秘密
「メローなウイスキー」って、どういうことなんだろう?
嘉之助のサイトを見ていると、何度も出てくる「MELLOW」。
MELLOW LAND, MELLOW WHISKY。
嘉之助を表すキャッチコピー。
穏やか。柔らかい。まろやか。
そんな意味なのかな、と思うけれど、実際に飲んでみると、それだけではない気がする。
じゃあ、嘉之助のいう「メロー」って何なんだろう。
今回は、嘉之助蒸溜所を歩きながら、その秘密を探してみました。
麦汁づくりから、もう「メロー」は始まっている?
「きれいな絵を描くなら、たくさんの絵の具があったほうがいい」
この日、蒸溜所を案内してくださった小野さんが、そう話してくれました。
嘉之助は、はじめからたくさんの種類の原酒をつくります。
ひとつの味に絞らない。
その絵の具をそろえるために、まずは土台となる麦汁づくりから始まります。

糖化は、時間をかけて丁寧に行う。
工程で、繊細な香味を含むまろやかな味わいにつながるのだそう。
まだウイスキーにもなっていない、最初の麦汁。
ここでは、できあがった麦汁を徹底して清澄させます。
しかも、機械とのダブルチェック&目視で徹底しているのだそう。
濁りがないか、きれいな状態になっているか。
ひとつひとつ確認していく。

まだウイスキーにもなっていない段階だけれど、
そこですでに、「まろやかさ」へ向かう準備が始まっているんです。
そして、ここでちょっと小ネタを。
製造が終わったあとの清掃も、かなり大変。
タンクの中に人が入って、ブラシでゴシゴシ洗います。
夏場は水道水そのものが30℃を超えることもあるそうで、作業をしていると、もう汗だく。
清掃は毎日で、30分から1時間ほどかかることもあるそうです。
「こんなに汗だくになるのに、痩せないんですよ」とお茶目に笑う小野さん。
こうした作業を重ねて、ニューポットがおいしくできたとき、その苦労が感動に変わると話してくれました。
そして、麦汁は発酵へ
きれいに清澄された麦汁は、発酵槽へ。
嘉之助では、ステンレスタンクの中で、5〜6日ほどかけて発酵させます。
ウイスキーの発酵としては、比較的長い時間をかけているそうです。

私が見たときは、ちょうど3日目。
タンクの中では、すでに泡が立っていました。
「どんどん泡の勢いが強くなって、沸き上がるような感じになっていきます」
この長時間発酵によって、クリーミーで豊かな味わいのもろみが生まれるそうです。
そして、ここでまた、ちょっと気になったことが。
発酵のスペースが、かなり広いんです。

「なんで、こんなに広いんですか?」
と聞いてみると、
「ここの広さは、あまり意味はないんですけれども」
え、そうなんだ(笑)。
ただ、ここは年に一度、お酒を造っていることに関する神事を行う場所にもなっているそう。
そこで、あ!と思って。
この日、ここに来る前に八幡神社に立ち寄っていたんです。
小正家の酒造りの原点は、日置の八幡神社に奉納する御神酒造り。


いろいろな原酒をつくる、3基の蒸留器
発酵を終えたもろみは、いよいよ蒸留へ。
嘉之助は、クラフトウイスキーの蒸留所としては珍しく、3基の蒸留器を使っています。

左側が初留用。
そして右側の2基が再留用です。
この2基、よく見ると形が違います。
真ん中はラインアームが下向きになっていて、比較的リッチで重厚な原酒をつくる。
一方、右側は上向きのラインアームにランタン型。
こちらは、ライトでクリーンな原酒をつくるために使います。
「基本的に初めから、いろんなバリエーションを作るようにやってるってことですよね」
と聞くと、まさにその通り。
3基をどう組み合わせて使うかによって、蒸留のパターンも変わります。
標準的な2回蒸留だけではなく、3回蒸留を行う組み合わせもある。
その数、全部で8パターンほどあるそうです。
すごい。

そして、蒸留器の先についているのが、コンデンサーです。
嘉之助では、今では珍しくなったワームタブを採用しています。
冷却水を張った槽の中に螺旋状の銅管を入れ、その中を蒸気が通っていく。
昔から使われてきた方式で、原酒と銅との接触が比較的少ないのが特徴です。
(現在では、シェル&チューブ式が主流になっていて、ワームタブを使う蒸留所は少なくなっています。)

それによって、舌の奥に伸びていくような力強さや、原酒の骨格を残すうえで、大きな役割を担っているとのこと。
あれ?! メローって、やわらかいだけじゃないのかもしれない。
樽の中で育つ、嘉之助の「MELLOW」
ここまで見てきたのは、ウイスキーになるまでの話。
では、蒸留器から出てきた原酒は、そのあとどうなるのでしょう。
嘉之助の熟成を知るには、まず「メローコヅル」の話から始まります。

小正醸造の二代目・小正嘉之助さんは、1957年、日本で初めての熟成焼酎「メローコヅル」を世に送り出しました。
世界の蒸留酒が、長い熟成によって深い味わいを得ることに着目し、米焼酎を木樽で6年間熟成させたのです。

「メロー」という名前は、このとき嘉之助さんがつけたもので、
「ゆったりとした気持ちで楽しんでほしい。」
そんな思いから、名付けられたそうです。
そして嘉之助さんには、もうひとつ夢がありました。
「日本一夕日が美しい土地」に専用蒸溜所を建て、鹿児島の蒸留酒文化を世界へ広めること。
その想いから、吹上浜のほとりに土地を取得。
「メローコヅル専用の蒸溜所」を建てる計画が進んでいました。

ところが、焼酎ブームが終わり、さらに嘉之助さんが亡くなったことで、その計画は頓挫します。
ただ、メローコヅルの熟成庫は、すでに建てられていました。
それが、今も残る「レガシー熟成庫」です。
そして60年後の2017年。
4代目・小正芳嗣さんが祖父の志を受け継ぎ、ウイスキー造りをスタート。
メローコヅルから始まった「樽で酒を育てる」という挑戦は、形を変えながら、今の嘉之助へとつながっています。
現在、嘉之助には7つの熟成庫があります。
それらは「レガシー」「コミュニティー」「テロワール」という3つの考え方で整理され、それぞれ異なる環境で原酒を育てています。

(HPから拝借)
レガシーは、受け継がれてきたもの。
コミュニティーは、地域とのつながり。
そしてテロワールは、この土地そのもの。
樽の種類。
樽の大きさ。
熟成庫の環境。
同じ蒸溜所でつくられた原酒でも、そうした違いによって、少しずつ表情が変わっていきます。
蒸留したばかりのころにはなかった丸みや、複雑さや、奥行き。
それが、樽の中で少しずつ生まれてくるのです。

メローの秘密
嘉之助は、「メロー」がどういう意味なのかを、どこにも定義していません。
見学ページの見出しは、「The Secrets of Mellow Whisky」。
秘密。
来て、見て、感じてください、ということなんだと思います。
造りも、歴史も、この土地も、まるごと。
▼ 蒸溜所のなかにある「MELLOW BAR」
ここから先は、私の言葉より、映像のほうが早いと思います。ぜひ最後まで動画をご覧ください。

目の前は、東シナ海。
陽が、ゆっくり沈んでいきます。
急ぐでもなく、止まるでもなく。
空と海が、少しずつ色を変えていく。
グラスの中の嘉之助は、甘くて、厚みがあって。
飲み込んだあとも、口の奥にずっと残っている。

あ、と思いました。
同じだ。
この夕陽と、同じ動きをしている。
ゆっくり沈んで、沈んだあともしばらく赤が残る。
嘉之助の余韻も、そうでした。
すっとは消えないんです。
あとで知ったのですが、嘉之助は自分たちの味を、こう表現していました。
「東シナ海にゆっくりと沈みゆく夕陽のような、余韻深い味わい」
造り手も、同じものを見ていた。

ここまで歩いてきた工程を、思い返しました。
目視で澄ませていく麦汁。
5〜6日かけた発酵の、クリーミーな気配。
ワームタブが残す、骨太な感じ。
樽の中で、少しずつ角が取れていく時間。
どれも、急いでいませんでした。
全部、ゆったり。
そうやってつくられた味が、この土地の夕陽と同じ速さで消えていく。

メローって、たぶん、そういうことなんだと思います。
あの日、東シナ海に沈んでいった夕陽を見ながら飲んだローカルバーレーの嘉之助。
ゆったりで、甘くて、りんごっぽい。
とても、ゆったりとした時間。
きっとこれが、私にとっての嘉之助のMELLOW。
ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる。
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
【谷本からの補足】 この嘉之助蒸溜所に関する記事は、実際に現地を訪問した体験を基に執筆していますが、一部谷本の個人的な考察や解釈が含まれています。 一人のウイスキーLOVERの独り言としてお楽しみいただければ幸いです。
最後になりましたが、丁寧にご案内くださった嘉之助蒸溜所・ブランドアドボカシーの石原さん、製造部主任の小野さんに、心より御礼申し上げます。
私にとって、ご一緒した時間もメローの一部です。
素敵な想い出をありがとうございました!!

📍 Bar Little Happiness
広島市中区流川町5-14-1F
月〜土:19:00〜24:30 / 日:〜24:00
(最終入店・約1時間前)
定休日:ほぼ年中無休
ご予約・お問い合わせは、公式LINEから🥃
🔗 オンラインショップ:https://shop.little-happiness.jp/
—
この記事を書いた人
谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
世界中の蒸溜所を自ら訪問し、造り手と直接対話した一次情報を持つ、現場主義のバーテンダー。バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。