ニュージーランドウイスキー・メーカーズマーク巨匠との絆
2026.2.28
伝統を奏でる「アナログ」の誇り — 家族の夢をのせたウイスキー
ニュージーランドの美しいカードローナ・バレーに佇む「カードローナ蒸留所」。
今回はウイスキーの製造工程と、創業者デジレー・リードが歩んだ創業ストーリーを深掘りします。
「バラの香水」から「21歳の夢」への原点回帰
創業者デジレがウイスキー造りに魅了されたのは、彼女の21歳の誕生日のことでした。
母親からプレゼントされたスコットランドの蒸留所ツアーで、彼女の心には「いつか故郷ニュージーランドで最高のシングルモルトを造る」という火が灯もりました。
28歳、キャリアの絶頂で下した「農場売却」の決断
デジレーさんは28〜29歳まで酪農に従事し、弁護士など、その後も多くのキャリアを積みました。
しかし、21歳の時にスコットランドで抱いた「蒸留所を造る」という夢を諦めきれず、彼女は安定したキャリアを捨てます。
この時、彼女の両親は娘の夢を全面的に支援するため、何百年も続いてきた先祖代々の農場を売却し、その全財産を蒸留所建設の資金として投じました。
「バラの香水」という最初の挑戦
農場を売った資金を手に、彼女が最初に計画したのは意外にもウイスキーではなく「バラ油の香水」の製造でした。
しかし、実際に蒸留を試みると、1トンの花びらから取れる精油はわずか1リットルという、ビジネスとしては極めて厳しい現実に直面します。
カリフォルニアでの運命的な出会い
この「歩留まりの低さ」という壁にぶつかったことが、彼女をさらなる学びへと突き動かしました。
彼女は蒸留技術を根本から学ぶため、カリフォルニアで開催された「世界蒸留会議(World Distillation Conference)」に単身乗り込みます。
そこで出会ったのが、アメリカ・ケンタッキー州の巨星、メーカーズマークのマスターディスティラー、リチャード氏でした


巨匠による「個人的な」猛特訓
リチャード氏はデジレーさんの情熱を認め、彼女に個人的な指導を行うことを引き受けました。
香水もウイスキーも「蒸留」という基本原理は同じです。
彼女にとって非常に大変な修行の日々でしたが、香水のために学んでいた蒸留技術は、巨匠の手によって世界基準のシングルモルト造りへと昇華されていったのです。
父が掘った「アルヴィンの井戸」
蒸留所の裏手には、深さ10メートルの小さな井戸があります。
驚いたことに、この井戸はデジレの父、アルヴィンさんが自ら掘り当てたものです。

(ものすごく見えずらいですが、写真真ん中の四角の部分が井戸です)
パドロナ山脈からの雪解け水が岩盤で自然に濾過され、ミネラルをたっぷりと含んで湧き出すこの水は、カードローナのウイスキーに豊かな骨格を与える「命の水」です。
今も現役でフォークリフトを操るアルヴィンさんの姿を見て家族一丸となってこの地を切り拓いた歴史が重なり、その光景の美しさに胸が熱くなりました。

(創業者の父・アルヴィンさんと)
羊の国の断熱材「メリノウール」
製造エリアに入ると、大きな糖化槽(マッシュタン)が目に飛び込んできます。
ここで驚かされたのは、槽を覆っている断熱材です。
なんと、ニュージーランド特産のメリノウールが使われています。


「ニュージーランド産の高品質なウールで温度を保つんだ」という解説を聞き、まさに羊の国ならではの知恵が、ウイスキーの甘みを引き出す温度を優しく守っていることに感動しました。
(アイスブレーカー(お洋服のブランド)と同じウールだそうです!)

パン作りのような「手作業」の発酵工程
発酵の工程も、非常に人間味に溢れています。
6,000リットルの麦汁に対し、加える酵母は4kg。
これを機械任せにするのではなく、スタッフがダマにならないよう手作業で丁寧に混ぜ合わせていきます。


「まるでパン作りみたいだろう?」と笑うスタッフの手仕事、そしてデジタル管理では決して到達できない「エッセンス」を大切にするアナログな姿勢。
色々見せてもらえて、とても贅沢な時間でした!
スコットランドから届いたポットスチル
そして蒸留所の主役は、スコットランドの名門フォーサイス社製の美しい銅製ポットスチルです。

それぞれのポットスチルには、地元の川にちなんだ「ローリング・メグ」と「ジェントル・アニー」という愛称が付けられています。


時に激しく、時に優しく、伝統的な2回蒸留で産み出される原酒が、カードローナの個性を作っています。
何百年も続いてきた先祖代々の家族の農場をすべて売却し、その全財産を娘の夢に託して出来た、カードローナ蒸溜所。
設備や、お花や、建物の美しさももちろんですが、その家族愛と不退転の決意が美しすぎる蒸溜所でした。
次回はいよいよ最終回。
貯蔵庫で出会った「一期一会」のウイスキーと、最高のマリアージュ体験・カードローナ蒸溜所のレストランについてお届けします。
【谷本からの補足】 このカードローナ蒸留所の記録は、現地での実体験をもとに綴っていますが、私の英語力は0のため、現地通訳を頼んで訪問しています。
現地通訳は、ウイスキーの知識は0であり、補足し合いながらの体験となりました。
帰国後、改めて自分なりに調べ直し、ファクトチェックを行ったつもりですが、一部谷本の個人的な考察や解釈が含まれています。 ご了承ください。
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto) 株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。
2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。
• 多店舗経営: 本店に加え、カジュアルに愉しめる姉妹店「Rum&WhiskyハイボールBar」を直営。
• オンライン事業: 全国へ厳選ボトルを小瓶で届けるオンラインショップ運営。
• 執筆・情報発信: 専門コラム【ウイスキーとラムの手帖】を執筆。
・創業ストーリー:22歳、ワーキングプアだった私が見つけた光。
「ウイスキーもラムも、作り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!