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三郎丸蒸留所見学体験記③Re:COOPERAGE・若き匠と、富山の地が育む「ガマ」の奇跡

2026.2.06
Re:COOPERAGE, the cask workshop at Saburomaru Distillery in Toyama

三郎丸蒸留所の内部に、「Re:COOPERAGE」という名の再生型の樽工房があります。

ここは稲垣社長が「日本の蒸留所のインフラを創る」という高い志を掲げて立ち上げた、ジャパニーズウイスキー界を支えることになるであろう拠点です。

若鶴酒造・三郎丸蒸溜所が運営する自社クーパラッジの入口。ジャパニーズウイスキーの質を左右する「樽」を自ら手入れ・製作する、クラフト蒸溜所としての強いこだわりを象徴するデザインの看板。

【三郎丸の樽職人】鹿児島から富山へ継承された技|日本の蒸留所を支える再生型樽工房「Re:COOPERAGE」

この工房で、月に70本から多い時には120本もの樽を一人で修復・リメイクしているのが、樽職人さんです(お名前を失念しました泣)。

彼はまだ20代という若さですが、キャリアはすでに10年の「樽一筋」のスペシャリストです。

三郎丸蒸溜所の自社樽工房「Re:COOPERAGE」にて、熟練の樽職人と。使い古されたオーク樽に新たな命を吹き込み、三郎丸の個性を形作る「樽再生(リ・クーパー)」の技術を支えるプロフェッショナルとの貴重な2ショット 三郎丸蒸溜所見学

樽職人さんはもともと鹿児島にある焼酎メーカーに勤めていました。

そこで彼を育てたのは、業界屈指の技術を持つ伝説的な職人である師匠でした。

その師匠が、稲垣社長のことを非常に気に入り、自身が独立するタイミングで「この若き才能をぜひ三郎丸に預けたい」と申し出たことから、樽職人さんの富山での挑戦が始まったのです。

三郎丸蒸溜所の自社樽工房「Re:COOPERAGE」にて、樽職人が「ガマ(蒲)の葉」を使った伝統的な水漏れ防止技法を解説。化学接着剤を一切使わず、自然素材の膨張を利用して樽の気密性を高める熟練の知恵

富山の自生「ガマ」がウイスキーを守る|液漏れを防ぐパッキンに隠された、職人の執念と土地の恵み

ウイスキー樽は釘も接着剤も一切使いません。

そのため、木材の継ぎ目に、水分を吸うと膨らむ性質を持つ植物の「ガマ」をパッキンとして挟み込み、液漏れを防ぎます。

樽職人さんは、富山の自然を活かしたものづくりを追求し、理想のガマを求めて富山中を一年間も探し回ったそうです。

ようやく見つけた土地の所有者に「近所迷惑な雑草だから、ぜひ刈ってほしい」と言われるほど生い茂る場所を発見し、自ら足を踏み入れ、刈り取り、洗い、干す……。

そんな地道な手仕事を経て、三郎丸の樽は「富山の恵み」で守られることになりました。

「樽は容器ではなく、原材料である」。漏洩率10%という業界の危機に立ち向かう、稲垣社長の「正義」とインフラへの挑戦

稲垣社長は、ウイスキー造りにおいて非常に印象的な言葉を口にされました。 

「樽は単なる容器ではなく、『原料』である」

樽の大きさ、材の種類、以前に入っていたお酒の影響によってウイスキーの味や香りの大半が決まるため、樽の品質を守ることはウイスキーの質そのものを守ることに直結します。

しかし現在、世界的な需要急増の裏側で、かつて1%程度だった樽の液漏れは10%近くにまで悪化しています。

良質な樽の確保が困難になり、クオリティの低い樽でも使わざるを得ないという、作り手にとって非常に恐ろしい事態が起きているのだそうです。

この現状に対し、稲垣社長が抱いているのは「自社の原酒を守る」という枠を遥かに超えた志でした。

現在、日本には樽職人が100人もいないと言われています。 

このまま壊れやすい樽が増え続け、国内にそれを直す技術も場所もなければ、日本のウイスキー全体の品質が底割れしてしまう——。

その危機を食い止めるために、稲垣社長は他社の樽修理や若手職人の研修も受け入れるオープンな再生型樽工房「Re:COOPERAGE」を運営しています。

社長が語る「日本の蒸留所のインフラを創る」という言葉。

それは、一見すると華やかなリーダーの宣言に聞こえるかもしれません。

けれど、その裏にあるのは「自分たちがやらなければ、この文化が途絶えてしまう」という、切実ないたいほどの危機感と責任感です。

自社の利益だけを追うほうが、経営としてはきっと楽なはず。

それでもあえて茨の道を選び、業界全体の未来という重い荷物を背負おうとするその背中に、私は心を強く揺さぶられました。

三郎丸蒸留所の存続と、日本ウイスキーという大きなエコシステムの整備。 

稲垣社長にとって、この二つはもはや切り離せない「一つの志」のように捉えている、私にはそう見えました。

発明家・稲垣社長が生んだ「バレルロール2」の衝撃。職人の身体を守るための、世界で最も優しく合理的な解決策

この高い志を支えるのが、稲垣社長の「発明家」としての才能です。

かつて樽の内側を削る作業は、粉塵が舞う過酷な環境での手作業。

1日2樽を仕上げるのが限界という、体力を削り取るような重労働でした。

そこで稲垣社長が自ら設計し、生み出したのが自動樽削り機「バレルロール2」です。

洗濯機の動きや、中華レストランでチャーハンを自動的炒める装置からヒントを得たというこの機械。

導入後、作業効率は自動で1日16樽へと劇的に向上しました。

目の前の見たこともない機械を前に、「何か質問はありますか?」と尋ねられた私は、「初めて見たので、言葉が出てきません」と答えました。

すると社長は、どこか誇らしげにこうおっしゃったのです。

「そうだと思いますよ! だって、僕が作ったんですから」

世の中にないものを自ら発明してしまう圧倒的な独創性に、ただただ驚かされた瞬間でした。

と同時に、私はそこに稲垣社長の真髄を見た気がしました。

日本全体のインフラを見据えるマクロな視点と、職人の手の痛みを理解するミクロな手触り。

その両方を持っているからこそ、この異次元の発明が生まれたのだと腑に落ちました。

三郎丸蒸溜所・バレルロール2を説明してくれている稲垣社長 筆者撮影

徹底的な合理主義を貫きながら、その真ん中には驚くほど温かな「人情」が通っている。

効率を追求する発明の裏に、職人への最大のリスペクトを隠し持つ。

稲垣社長の発明は、職人さんの能力が最大限発揮される、最も効率的で、最も優しい解決策ように、私には見えました。

「職人の勘が必要なリペア」は樽職人さんが行い、「身体を壊しかねない重労働」は稲垣社長の発明が担う。

この二人三脚の形こそが、日本のウイスキーの未来を支える、世界でここにしかない力強い基盤となっていました。

 ウイスキー樽が「薪」となり、かまど飯を炊き上げる|三郎丸蒸留所が描く「100年先の未来」と美しい循環

工房で役目を終え、熟成に使えなくなった樽材は、併設されたレストラン「かまど炭三郎」、で薪として使われ、かまどご飯となるようです。

(BBQもできるとおっしゃっていたので、樽材でBBQができるのかも?!(聞くのを忘れました))

ウイスキーを長年育んだ木が、最後は人々の心とお腹を満たすエネルギーになる。

この「美しい循環」の景色は、稲垣社長が守ろうとしている「100年先の未来」を象徴しているようで、深い感動を覚えました。

三郎丸蒸溜所のセミナールーム 筆者撮影

(↑売店の横にあったお部屋。歴史ある建物を活かした空間そのもの天井や木組みの構造がむき出しになった内部は、 過去の時間がそのまま残っているような場所で、すごく素敵でした!!
その骨組みの向こうに外の光が入り込み、過去と未来が通信しているかのよう。)

三郎丸蒸溜所の将来構想が描かれた「ビジョンボード」の前で、情熱的に語る稲垣貴彦氏。単なるウイスキー造りにとどまらず、地域文化の継承や100年先を見据えたジャパニーズウイスキーのあり方を示す

​​稲垣社長は、ご自身のことを多くは語りません。

常に未来と、業界全体のことを見据えて淡々と進んでおられます。

けれど、その一つひとつの発明や、その発明が生まれた背景こそが、何よりも雄弁に彼の『想い』を物語っている。

そんなふうに、私は感じました。

次回、第4回は、いよいよ蒸留所の内部へ。

一瞬で心を掴まれる「ステージのような床」や、大人の遊び心が詰まった「隠し扉」の秘密をお届けします。どうぞお楽しみに!


「ウイスキーもラムも、作り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」

出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。

【谷本からの補足】 この三郎丸に関する記事は、実際に現地を訪問した体験を基に執筆していますが、一部谷本の個人的な考察や解釈が含まれています。 一人のウイスキーLOVERの独り言としてお楽しみいただければ幸いです。

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【この記事を書いた人】

谷本 美香(Mika Tanimoto)
株式会社Little.m 代表取締役/オーナーバーテンダー

広島・流川で2006年からウイスキーとラムの専門店「Bar Little Happiness」を営む。国内外の蒸溜所を訪ね、造り手の話をコラム「ウイスキーとラムの手帖」に綴っている。広島市優良技能者。

「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」

【お店の情報】📍 Bar Little Happiness

広島市中区流川町5-14 Rolling流川 1F
月〜土 19:00〜24:30/日 19:00〜24:00(店主が蒸溜所へ旅に出る日はお休み)
ノーチャージ・予約不要

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