亀田蒸溜所訪問記④ なぜ「作ればいいじゃん」と言えたのか?
2026.2.04
亀田蒸溜所訪問記①で触れましたが、亀田蒸溜所の誕生秘話を語る上で欠かせないのが、奥様の放った一言です。
大好きだった「竹鶴17年」が世界的な評価を得て品薄になり、もう自分たちの手には届かなくなる……と嘆く常田社長に対し、奥様(現・はんこの大谷社長)は「じゃあ自分で作ればいいじゃん」と、さらりと言ってのけました。
普通なら「何を言っているの?」と笑い飛ばしてしまいそうな提案です。
実際、社長も最初は「あんな馬鹿でかい設備なんて作れるわけない」と驚いたといいます。
私は、どうしても不思議でした。
なぜ奥様はそんなに簡単に、夫の背中を押すことができたのでしょうか?
その答えを求めて調べているうちに、私は同社のホームページで先代会長の遺した「人生観・経営観」に出会いました。
一族に流れる「自己成長」の哲学
先代会長の言葉には、こう記されています。(※HPより引用)
「職業人として、人間として一度限りの人生の中で自分の可能性を開花させ、仕事を通して自身を成長させる」
奥様のあの力強い一言は、この「一度限りの人生で自分の可能性を開花させる」という家訓のようなスピリットから、自然にこぼれ落ちたものだったのではないでしょうか。
奥様にとって夫のウイスキーへの想いは、新しい事業として「開花」させるべき尊い可能性に見えたに違いありません。

「自分の色」に染める、元MRの挑戦
その一言に火をつけられた常田社長は、そこから驚異的なスピードでウイスキー作りを形にしていきます。
「文系ですから」とはにかみながらも、製薬会社のMR時代に培った科学論文の読解力や、生物学の知識をフルに活用。
文献をベースに仮説を立て、「コントロール群(比較対象)」を設けて比較検証するという徹底したトライアンドエラーを繰り返しました。
周囲が「やめろ」と止めた自社製麦の導入や、メンテナンスの苦労を承知で選んだ全量木桶仕込み。
これらはすべて、「自らを成長させる仕事」そのものでした。
社長は誰のブームでもなく、「自分のウイスキー」を造るために、過去の経歴すべてをウイスキーの雫へと変えていったのです。

「社会の役に立つ」という実感の連鎖
会長の教えは、「人のために役立っている、社会に貢献しているという実感が伴ってこそ生き甲斐がある」という言葉でも締めくくられていました。
その精神は、現在の蒸溜所のユニークな多角的展開に見事にリンクしています。
- うなぎの養殖: 蒸留時に出る70度近い大量の熱湯を捨てずに再利用。
- 障害者就労支援: 昭和40年代から続く伝統を守り、亀田のウイスキーの瓶詰め作業などは、地域の障害を持つ方々が担っています。
常田社長は、この就労支援について「働いてお金をもらうことは、社会の参加として幸せなこと」と話してくださいました。

亀田蒸溜所のHPには、創立の際に妻の両親には大反対されたとも書かれていましたが、
まさか娘が選んだ男性が、先代の理念を誰よりも体現し、自分の色で可能性を開花させる存在になるとは、きっと先代も舌を巻いているのではないでしょうか。

開花した可能性の「星座」
今回の訪問で手にできることができたシングルモルトのラベルには、素敵な秘密が隠されています。
•ファーストリリース:優しさと甘さを表現した、「魚座」の女の子、。
•第二弾:甘いピートの残り韻が特徴の、「山羊座」の男性の部屋
このラベルが「星座(ゾディアック)シリーズ」であることを、実はあとで知りました。
「もしウイスキーが人だったら どんな人でしょう?」というのがテーマなようです。
イメージを膨らませながら飲むと、とっても楽しいです!
各ボトルに関しては、また別のコラムで書いていきたいと思います。
個人的には獅子座のがリリースが今から楽しみ!

亀田蒸溜所のHPの最後には、このような言葉が残されていました。(※HPより引用)
僕たちの旅は始まったばかりです。
僕のウイスキーを美味しいと思ってくれる人と僕のために、これからもウイスキーをつくっていきます。
それはまさに、この地で自分の可能性を信じて歩み始めた社長が描き出す、「人生の可能性の地図」のようにも見えます。
広島から新潟へ、一人のファンとして訪ねた今回の旅。
手元にある貴重な亀田ウイスキーたちは、「一度きりの人生を、誰かのために、そして自分の成長のために使い切る」という強い意志の結晶のように思えました。

リトハピから皆様へ。
「亀田ウイスキーを、今のうちに飲んでおいてください!!」
その一杯には、新潟の夜空を彩る星々のように、温かく、そして力強い物語が溶け込んでいます。
【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto) 株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。
2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。
• 多店舗経営: 本店に加え、カジュアルに愉しめる姉妹店「Rum&WhiskyハイボールBar」を直営。
• オンライン事業: 全国へ厳選ボトルを小瓶で届けるオンラインショップ運営。
• 執筆・情報発信: 専門コラム【ウイスキーとラムの手帖】を執筆。
・創業ストーリー:22歳、ワーキングプアだった私が見つけた光。
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!