竹鶴政孝が信じた、目に見えない酵母の力
2026.3.12
日本のウイスキーの父・竹鶴政孝。
彼が第二の故郷として選んだ仙台・宮城峡は、北の大地・余市とは対照的な、華やかでエレガントなキャラクターを持つ蒸溜所です。
竹鶴の実家が造り酒屋であったことは有名ですが、そのルーツゆえに、彼は「酵母」という目に見えない微小な生物が持つ力を誰よりも信じていました。
収集し、研究し続けてきた「酵母カルチャーコレクション」は、今もニッカウヰスキーの宝物として大切に受け継がれ、多様な原酒を生み出す原動力となっています。
2022年、限定公開された「香りのブースト」
通常、ウイスキーの個性は「蒸留器の形」や「樽熟成」で語られることが多いですが、2022年に数量限定でリリースされた宮城峡アロマティックイースト2022がスポットを当てたのは、その前段階である「発酵工程(酵母)」でした。
発酵とは、銘柄の個性を決める「エステル(芳香成分)」を生み出す、極めて重要な儀式。
ニッカの膨大なライブラリーから選ばれたのは、アプリコットやピーチのような香りを強く生成する特別な酵母。
宮城峡本来のリンゴのような瑞々しさに、厚みのある黄色い果実のレイヤーを重ねる試みです。

(宮城峡HPから拝借↑)
「隠れていた意外な個性」という言葉の真意
ニッカの公式が語る「隠れていた意外な個性」という言葉。
これがなぜ、単なる「フルーティーな宮城峡」という枠を超えた驚きに満ちているのか。
その核心は、「ニッカが長年培ってきた酵母研究の結晶が、ブレンダーの技によって理想的な形で結実した」ことにあります。
「隠れていた」理由:極端すぎるセンシティブさ
この特別な酵母から生まれる原酒は、これまで表舞台に出るのが非常に難しい存在でした。その理由は、その個性が「あまりにもセンシティブ(敏感)すぎた」からです。
強すぎれば: 宮城峡本来の華やかなバランスを、一瞬で壊してしまう。
弱すぎれば: その特別な香りそのものが、跡形もなく消えてしまう。
この「ちょうど良いポイント」を見極めるのが極めて難しく、宮城峡の伝統的なラインナップには組み込みにくい「扱いづらい個性」として、貯蔵庫で出番を待っていました。

「発見」の瞬間:現代のブレンダーが辿り着いた答え
2022年、この扱いにくい個性を、現代のブレンダーが「ユーズド樽」と「微量のピート」という手法で見事に手なずけました。
ユーズド樽: 樽の主張を抑え、酵母由来の香りを主役にする。
ヘビーピート: 繊細な香りを、味わいの中心に繋ぎ止める「重し」にする。
「強すぎて使いにくい」と思われていた個性が、実は宮城峡の新しい魅力として共存できる……。
この「絶妙な着地点を見つけたこと」こそが、2022年のリリースに込められた物語の結末。
公式テイスティングノート
宮城峡モルトのエレガントさを活かしつつ、熟したアプリコットや白桃、完熟バナナのような濃厚なエステル香が重なります。柔らかなモルトのコクと、程よいピートが織りなす完璧な調和。
出逢いは必然。Rum & Whiskyの世界へようこそ。
【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto) 株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。
2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。
• 多店舗経営: 本店に加え、カジュアルに愉しめる姉妹店「Rum&WhiskyハイボールBar」を直営。
• オンライン事業: 全国へ厳選ボトルを小瓶で届けるオンラインショップ運営。
• 執筆・情報発信: 専門コラム【ウイスキーとラムの手帖】を執筆。
・創業ストーリー:22歳、ワーキングプアだった私が見つけた光
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!