亀田蒸溜所訪問記①余市への憧憬と、新潟県産麦「ゆきはな六条」に託した地酒の矜持
2026.1.30
広島から新潟へ。
一見すると接点のないこの距離を越えさせるには、それなりの「事件」が必要です。
私にとってのそれは、あるウイスキーイベントでの衝撃的な出会いでした。
全国でクラフト蒸溜所が急増する中、正直に言えば「亀田蒸溜所」はノーマークだったんです。
ところが、一口飲んで言葉を失いました。
「なんだ、この綺麗なウイスキーは……!」。

広島には誇るべき「桜尾」がありますが、新潟のこの地で、全く異なるベクトルで完成されたウイスキーが生まれていることに、居ても立ってもいられず、すぐにネット検索!
なんと、目の前で注いでくださった人は、社長ではありませんか。
それなら話は早い!!!
HP上では、蒸溜所見学は受け付けていないとのことでしたが、直談判!
不躾にもかかわらず、ご快諾いただき、今回訪問させていただきました。

運命を変えた「あの一杯」と、おばちゃんのサービス
新潟駅からほど近い、工業地帯の中に佇む「亀田蒸溜所」。
そこで迎えてくれた常田社長の口から語られたのは、あまりにピュアで、少し意外な物語でした。
社長のウイスキー愛の原点は、20歳の学生時代にまで遡ります。
当時、先生に誘われて訪れたのが北海道の「余市蒸溜所」でした。
学生だった社長は、往復運賃をかけて何度も通い詰めたそうです。
当時の試飲コーナーには時間制限がなく、朝から「スーパーニッカ」などを楽しみ、有料コーナーでは売店のおばちゃんが「美味しいやつをちょっと」とサービスしてくれたといいます。
そんな温かな体験が、彼を「余市大好き」に、そしてウイスキーの虜にしたのです。
しかし、そんな彼がなぜ「造る側」に回ったのか。そこには、ある「運命の一言」がありました。
「じゃあ、自分で作ればいいじゃん」
かつて製薬会社のMR(医薬情報担当者)として働いていた社長は、大好きな「竹鶴17年」が世界的な賞を取り、どんどん品薄になっていくのを寂しく感じていました。
奥様に「日本のウイスキーが手の届かない存在になってしまう」と嘆いたところ、返ってきたのは「じゃあ、自分で作ればいいじゃん」という、あまりに潔い一言でした。

家業は老舗の「印鑑屋(大谷)」。
ウイスキー造りとは無縁の世界に思えましたが、奥様の一言に背中を押された社長は、各地の小規模蒸溜所を視察して回ります。
そこで「これくらいの規模なら、自分でもできるかもしれない」という確信を掴み、事業計画を書き始めたのです。

新潟の地酒としての矜持「ゆきはな六条」
新潟といえば「米どころ」。
しかし社長がこだわったのは、ウイスキーを通じた「地酒としての表現」でした。
その象徴が、自ら命名した新潟県産大麦「ゆきはな六条」です。
通常、ウイスキー造りには「二条大麦」が使われます。
「六条大麦」は収量が落ち、コストもかさみますが、社長は「美味しいから」という理由でこの麦を選びました。
新潟の農家さんと直接交渉し、相場より高く買い取ることで、米一辺倒だった農業に新しい風を吹き込んだのです。
「初めから全部揃えるのはやめろと言われた」
という自社製麦(モルティング)設備も、すべてはこの地元産の麦を活かすため。
この勇気ある決断こそが、イベントで私を驚かせた、あの「柔らかく、綺麗なニューメイク」の正体でした。
広島から来た私に、社長は笑って言いました。

「そんなに規模が大きくないからこそ、想いを共有できる人に飲んでもらえればいい」。
ノーマークだったはずの場所で、一人の男の情熱と、奥様の大胆な一言、そして地元の麦が混ざり合い、とんでもないものが生まれようとしていました。
しかし、この「綺麗な味」の裏側には、さらに元MRならではの緻密な科学的アプローチと、「木桶」へのこだわりが隠されていたのです。
亀田蒸溜所訪問記、続きます!
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto) 株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。
2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。
• 店舗経営: 本店に加え、カジュアルに愉しめる姉妹店「Rum&WhiskyハイボールBar」を直営。
• オンライン事業: 全国へ厳選ボトルを小瓶で届けるオンラインショップ運営。
• 執筆・情報発信: 専門コラム【ウイスキーとラムの手帖】を執筆。
・創業ストーリー:22歳、ワーキングプアだった私が見つけた光。
「ウイスキーもラムも、造り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!