スプリングバンクが紡ぐ、キャンプベルタウン「三つの人生」の物語
2026.1.04
もし、スプリングバンクのラベルが、かつてのライバルたちの「形見」だとしたら……?🥃
■ 栄華の終わりと、ゴーストタウンの記憶
19世紀後半、スコットランド西方の港町キャンベルタウンは、30以上の蒸留所がひしめき合う、世界でも活気あるウイスキーの聖地でした。
しかし、1920年代の米国禁酒法と世界恐慌という時代の荒波が、この港町にも容赦なく襲います。
ひとつ、またひとつと蒸留所の煙突から火が消え、かつてあれほど栄華を極めた街は、わずか数カ所の蒸留所だけが残る静寂に包まれてしまいました。
多くの名門蒸留所が、その名前も、独自のレシピも、そして人々の記憶からも消え去ろうとしていたのです。
■ ライバルたちの名を、自らの中に宿す決意
そんな絶望的な衰退の中で、名門「スプリングバンク」を経営するミッチェル家が下した決断は、あまりにも情熱的で、独創的なものでした。
彼らは、自分たちのブランドを守るだけでなく、廃業に追い込まれた「かつての隣人やライバルたち」の魂を、自らの蒸留所の中で蘇らせることを決めたのです。

- ロングロウ(1896年閉鎖)
もとはスプリングバンクのすぐ裏手にあった別の蒸留所です。
ミッチェル家はその跡地を買い取り、倉庫やボトリング工場として守り続けました。
そして1973年、かつての隣人の名を冠し、「ヘビーピート」の力強さを再現したウイスキーを誕生さ せたのです。
- ヘーゼルバーン(1925年閉鎖)
かつて街最大の規模を誇り、一時期はミッチェル家も経営に携わりましたが、不況の中で守りきれず閉鎖してしまった名門。
その名を惜しみ、1997年、彼らは「3回蒸留」という当時の手法に敬意を表したノンピートスタイルとして復活させました。
驚くのは、これら全く個性の異なる三つの人生が、すべて『同じ蒸留所のなかで、同じ職人たちの手によって』造り分けられているという事実です。
彼らは、限られた3基の蒸留器をブランドごとにパズルのように組み合わせ、蒸留回数や経路を複雑に切り替えます。
同じ職人が、街の多様な歴史をその手で再現するために、何度も『顔』を変えながら魂を吹き込んでいます。

(↑公式HPから拝借)
■ 「街の歴史を背負う」ということ
ひとつの蒸留所で、かつては別の経営だった複数のブランドを造り分ける。
それは、単なるビジネスの枠を超えた、キャンプベルタウンという街の記憶が完全に消滅することを食い止めるための「継承」の儀式です。
ブランドが変わるたびに蒸留の回数を変え、ピートの焚き具合を変える。
効率を優先する現代において、これほどの手間をかける理由はひとつしかありません。
「この街の多様性を、自分たちの代で絶やしてはならない」
かつてこの街で共に汗を流したライバルたちの誇りや、潮風に消えていった活気の断片を、ボトルのなかに閉じ込めているのです。
■
ウイスキー愛好家の間で『モルトの香水』と呼ばれるほど華やかでありながら、一方でキャンプベルタウンの海を感じさせる『塩辛い(Briny)』味わいを帯びるスプリングバンク。
スプリングバンク10年は、まさにその「はじまり」を告げる一杯。
【公式テイスティングノート】
- 色: 秋の黄金色
- 香り: グーズベリー、マンゴー、ブドウ、バニラ、コムハニー、穀物
- 味: オレンジ、モルト、ヘザーハニー、トフィ、ナツメグ、シナモン、潮気
■

スプリングンバンクは今もなお、全行程を同一敷地内ですべて行っている数少ない蒸溜所です。
そのため、どうしても年間の生産量が限られてしまい、この「10年」というスタンダードボトルでさえ、現在では世界的に極めて入手困難な一本となっています。
効率よりも、守るべき味と歴史を優先した結果、生まれる量はわずか。
個性的な味わいのため、モルト初心者さんには少し辛く感じるかもしれません。
ですが、飲み慣れている方にとっては、鼻に抜ける香りの高さや、重なるフルーツの奥行き、そして唯一無二の余韻を心ゆくまで愉しめるはずです。
出逢いは必然。
Rum & Whiskyの世界へようこそ。
Bar Little Happiness 谷本美香
** instagramでは「ちょっと自慢できる小ネタ」を公開しています。是非フォローしてください **
⬇️
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!