宇宙船？！ ──マッカラン蒸溜所で感じた、揺るぎない哲学

2025.10.28

スペイサイドの大地に現れた、「別次元」の建築

2018年、スコットランド・スペイサイドに誕生したマッカランの新蒸溜所。

まだ出来たばかりの新蒸溜所に訪問した際、驚きました。

「これは、本当に蒸溜所なのか？」

従来の煉瓦造りや工場然とした蒸溜所のイメージとは全く異なり、それはまるで、超一流の博物館か、あるいは壮大なアート作品のようでした。

緩やかな丘陵に溶け込むように埋め込まれたその建物は、他のどの蒸溜所とも、全く別の次元にある風景でした。

静かで、圧倒的な存在感を放つその巨大な建物の下、内部に足を踏み入れた瞬間、世界は一変します。

小さなスチルが並ぶ、宇宙船の心臓部

内部は未来的な光景が広がっていました。

木製の格子状のドーム天井の下、円形に並ぶ光景は、まさに「宇宙船の心臓部」そのもの。

磨き上げられた銅の輝き、寸法の狂いもなく整然と配置された設備。

ニョキニョキとしたポットスチルのアーム部分は、まるで宇宙船から宇宙人が出てきそうでした。

この未来的な空間で、200年の伝統を持つウイスキーが生み出されているという強烈なコントラストこそが、マッカランの新しい哲学を物語っているようでした。

「当分の間、マッカランが他の蒸溜所に越されることはないだろう」──そう確信した瞬間でした。

哲学を未来へ。小さなスチルに込められた「妥協なき再現」

新蒸溜所は、ただ「新しく、大きく」なったのではありません。

マッカランが200億円を投じてまで守り抜いたもの、それは原酒の品質です。

公式サイトには、そのこだわりが明確に記されています。

Instead of changing the shape or size of our stills, we deliberately chose to fashion the exact same shape, size and lyne arm orientation of our original stills.

（ポットスチルの形、サイズ、ライン・アームの角度まで、旧蒸溜所と全く同じ設計を忠実に再現した。）

スペイサイドの中でも特に小さい部類に入るこのスチルこそが、マッカランの繊細で複雑な香味を生み出す源。

スチル一つひとつが、1824年の創業以来続く「マッカランらしさ」を守り抜くための、妥協なき選択の「証」なのです。

マッカランの揺るぎない根幹を支える「6つの柱」

マッカランの品質は、厳格な「Six Pillars（6つの柱）」という哲学によって支えられています。

マッカランエステート 1700年建造のイースターエルキーハウスを擁する広大な土地。自然環境への配慮も含め、全ての始まりの地。
Curiously Small Stills（好奇心をそそる小さな蒸溜器） スペイサイド最小クラスのスチル。銅との接触面積を増やし、果実味豊かな原酒を抽出します。
ファイネストカット（最高の部分だけを選び取る） 蒸溜の過程で、最もクリアでリッチな部分、わずか16%のみを贅沢に選別。
樽へのこだわり スペイン・ヘレスの専属職人が手作りし、シェリー酒で3年以上シーズニング（味付け）したオーク樽。
シェリー樽熟成 マッカランの代名詞。オロロソやペドロヒメネス樽が、ドライフルーツやスパイスの複雑な香味が育みます。
Exceptional Mastery & Craftsmanship（卓越した職人の技術） （厳格な職人技は、まさにこの最後の柱に凝縮されています。全ての工程を支える、熟練の職人の技能と献身です。）