小諸蒸溜所で目撃した「調和」の正体:世界的ブレンダーが導く、日本ウイスキー界のパワーハウスへの道
2026.3.24
2026年の小諸ウイスキーフェスティバル。
残念ながらマスターブレンダーであるイアン・チャン氏のセミナーはチケットが完売しており、「3蒸溜所クロストーク」での登壇を通してしか、直接お話を伺うことは叶いませんでした。
そのため、小諸蒸溜所について深く知る機会は限られていましたが、現地でのテイスティング体験に加え、
海外メディアのインタビュー記事や最新のソースを掘り下げ、現地で感じた「空気感」と繋ぎ合わせることで、
私なりの視点で見えてきた「小諸蒸溜所」をまとめたいと思います。
(※個人的な感想が多分に含まれていることを前提にお読みください)


巨匠イアン・チャンが日本で見出した「芸術的な概念」
かつて台湾の「カバラン」を世界一へと導いたイアン・チャン氏が、次なる舞台に選んだのがこの小諸でした。
熱帯気候の台湾では天使の分け前(蒸散量)が多く困難だった「エイジング(酒齢)表記のあるウイスキー」を造るため、スコットランドに近い気候を持つ長野県小諸市、標高910メートルの高地へとやってきたのです。
(たった3時間のオンラインミーティングで、創業者である島崎氏のビジョンに共鳴し、’Im in! (一緒にやろう!)”と言った逸話は、運命のようですね!)
イアン氏が小諸のウイスキーを通じて表現しようとしているのは、「芸術的な概念(Artistic Conception)」。
それは、「森林に囲まれているような感覚」や「移ろいゆく季節」を感じさせるという、極めて情緒的な体験を目指したものです。

- アートとサイエンスの融合:
- イアン氏は、ウイスキー造りは「芸術(アート)と科学(サイエンス)の組み合わせ」であり、その比率は「半分ずつ」であると考えているのだそうです。
科学的な知識でニューメイクの質を確保するだけでなく、異なる原酒が混ざり合った時の味わいを想像する「想像力(イマジネーション)」こそが、優れたブレンダーに不可欠であるという信念。
(↑ウイスキーの香りを構成する要素を香りながら体感できる*2倍速推奨)
- 「調和(バランス)」への想い:
この芸術的な概念を伝えるために最も重視しているのが「バランス」。
特定の個性を際立たせるのではなく、誰もが楽しめるようなバランスの取れたフレーバーとキャラクターの追求。
これこそが、小諸の核となるものだと思われます。
徹底した「科学」が支える「調和」の驚異
クロストークの席で提供された小諸の原酒を口にした際、私はある衝撃を受けました。
その原酒はアルコール度数46%まで加水されていましたが、驚くべきことに、熟成2年という若さ(3年未満)でありながら、
日本の新興蒸溜所(クラフト)が直面しがちな「ニューポット(未熟成酒)特有の香り」がほとんどしませんでした。


(綺麗な赤色・ルビーポート樽だそうです。真ん中が小諸蒸溜所のウイスキー)
安積蒸溜所の黒岡氏も「この度数まで加水してこの香りを維持するのは凄い」と驚きの声を上げていました。
多くのクラフト蒸溜所が、原酒の未熟さを隠すために高めの度数でボトリングせざるを得ない現状がある中で、小諸は最初からその次元を超えていました。
この「調和」を支えているのは、徹底した科学と環境の力、ブレンダーの力量。
- 革新的技術:
恩師ジム・スワン博士から継承したSTR樽(シェービング、トースティング、リチャーリング)を用い、大手メーカーにはない複雑なフレーバーを短期間で付与。

- 土地のポテンシャル:
標高910メートルの冬の寒さが熟成中の酸化を促し、小諸の硬水に含まれるミネラルが健康な酵母を育むことで、味に深みと個性を与えています。

(浅間山だよと、駐車場のスタッフさんが教えてくださった)
- 原酒のスペクトラム
ブレンダーをシェフに例え、「原酒のスペクトラム(raw spectrum)」と呼ばれる、さまざまな色やキャラクターを持つニューメイクを組み合わせることで、最終的な製品という「芸術」を作り上げています

「クラフト」を超えた、国内第3位への壮大な布石
このテイスティング体験を通して私が感じたのは、小諸は「クラフトウイスキー」という枠組みでの戦いを前提にしていない、ということです。
全く戦場が違う。と感じました。
これは、今後展開される蒸溜所、ひいては軽井沢蒸留酒製造(KDI)グループの巨大な野望に紐づいているのではないでしょうか?
サントリーに「山崎」「白州」があり、ニッカに「余市」「宮城峡」があるように、KDIもまた、小諸を「新しい伝説」のベンチマーク(指標)に据え、複数の拠点を横断するブランド戦略を描いているように思いました。
- パワーハウスへの道:
KDIの創業者・島岡高志氏は、自社「ジャパニーズウイスキーのパワーハウス(強大な組織)」にすると公言しています。
- 富良野プロジェクト:
KDIの第2蒸溜所となる北海道・富良野(西部グループとの共同開発による「Furaliss」)などが稼働すれば、KDIは国内第3位の生産者に躍進する計画です。(第3蒸溜所を南部に構想中とのこと)
- 世界市場への直結:
シンガポールに物流拠点を構える構想を含め、最初から世界市場を見据えた盤石な体制が整えられています。
- 観光:
観光(ツーリズム)の要素。国際的な訪問者にとっても、東京から新幹線で60分という立地は非常に有利です。


島岡氏という強力な経営陣の資本力と戦略眼、そしてウイスキー造りにおける「完全なクリエイティブ・コントロール」を任されたイアン氏の才能。
この両輪が、かつてのサントリーやニッカが歩んだように、「小諸」や「富良野」といった各拠点の個性を、マスターブレンダーが「響」や「竹鶴」のような究極のブレンデッドへと昇華させていく未来のように、私には見えました。
小諸で目撃した「調和」の正体。
それは、日本ウイスキーの歴史を塗り替え、世界を席巻するための「最強の共通言語」だったように感じました。
余談・
英語が話せたら、イアンさんに細かい気持ちの部分を直接質問できたのに……と、強く思いました。
言葉の壁を超えて、あの瞬間の気持ちを本人に直接聞けたら、どれほど素敵だっただろう….!
そんなもどかしさを抱えながらも、驚かされたのはイアン氏の姿勢です。
これほど世界的に著名な方であるにもかかわらず、相手を尊重する姿勢を一切崩さない。
きっと、こんな素敵な姿勢の人の作るウイスキーは、調和を大切にした美しいものが出来上がるのだろうと感じました。
あと、小諸蒸溜所について調べるに連れ、創業者である島崎さんにも、とってもお会いしてみたくなりました。
いつか、イアンさんと島崎さん。このお二人のトークセッションを聞いてみたい!

***小諸蒸溜所はまだファーストリリースを出していないため、リトハピでは扱いがありません。発売された際には、ぜひともGETして、リトハピのお客様にご提供できるよう頑張ります!(すごい倍率だと思われる💦)
「ウイスキーもラムも、作り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto) 株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。
2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。
• 多店舗経営: 本店に加え、カジュアルに愉しめる姉妹店「Rum&WhiskyハイボールBar」を直営。
• オンライン事業: 全国へ厳選ボトルを小瓶で届けるオンラインショップ運営。
• 執筆・情報発信: 専門コラム【ウイスキーとラムの手帖】を執筆。
・創業ストーリー:22歳、ワーキングプアだった私が見つけた光。
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!