安積蒸溜所|日本クラフトウイスキーの恩人
2026.3.26
小諸蒸留所フェス2026レポート第4話は、日本のクラフトウイスキーの「恩人」とも言える安積蒸溜所(笹の川酒造)、そしてセッションを通じて見えてきたジャパニーズウイスキーの未来について綴ります。
安積蒸溜所(笹の川酒造):260年の歴史と「未来への系譜」
福島県郡山市に位置する安積蒸溜所は、1765年創業の老舗日本酒蔵、笹の川酒造を母体としています。
その歴史は深く、ウイスキーの製造免許取得は1946年まで遡り、2026年には免許取得・製造開始から80周年という大きな節目を迎えました。
私自身、10年以上前に笹の川酒造を訪問したことがあります。
当時はまだ「作り酒屋の延長」という趣が強く、福島の知人の紹介で社長自ら蔵をご案内いただきました(残念ながら当時の写真は紛失してしまいましたが……)。
その時、蔵の片隅に眠っていた「超古酒」を宝物のように買って帰ったのは良い思い出です。
そんな歴史ある笹の川酒造ですが、HPを拝見すると今は驚くほどモダンで美しい蒸溜所へと生まれ変わっており、その進化に目を見張りました。

(HPから拝借↑)
イチローズモルトを救った「歴史的決断」
笹の川酒造の歴史を語る上で欠かせないのが、ベンチャーウイスキー(イチローズモルト)の肥土伊知郎氏との絆です。
2004年、羽生の原酒が廃棄の危機に瀕した際、その原酒を引き取り、自社の貯蔵庫で大切に熟成を継続させたのが笹の川酒造でした。
この決断がなければ、世界を熱狂させている「イチローズモルト」の誕生も、現在のジャパニーズウイスキーの隆盛も、違った形になっていたかもしれません。
日本のクラフトウイスキーの「恩人」とも言える蒸溜所です。

「完璧はない」と語る柔軟な姿勢
今回のフェスで登壇された製造担当の黒羽氏は、再開から10年目を迎える現在でも「この造りが完璧だということはまだない」と語ります。
クラフトウイスキーの先駆けとしての地位を確立しながらも、毎年新しい原料やより良いアプローチを柔軟に取り入れ、進化を止めない姿勢こそが安積の強みです。
日本酒蔵ならではの繊細な「作り込み」
安積のウイスキーが目指すのは、「複層(レイヤー)があり、複雑で満足感がある」スタイル。
- 吟醸香の意識:
発酵段階で、日本酒蔵ならではの感性を活かし、繊細な「吟醸香」をウイスキーのキャラクターとして引き出す工夫をしています。
- 樹齢100年以上の樽:
フェスで披露されたボトルは、アメリカのワイナリーにオーダーした樹齢100年〜150年という希少なアメリカンオーク樽で後熟されています。
この安積のボトルをテイスティングした嘉之助蒸溜所の石原氏は、「美味しいウイスキーを飲むと鳥肌が立つのですが、今鳥肌が立っています!」とそのクオリティを大絶賛されていました。
ジャパニーズウイスキーの未来:増え続ける蒸溜所の先にあるもの
現在、日本国内には110を超える蒸溜所がひしめき合っています。
この「群雄割拠」の時代の先に、どのような未来が待っているのでしょうか。
セッションの終盤、小諸蒸留所のイアン・チャン氏は「5年後のジャパニーズウイスキーは、よりカラフルで多様性に満ちたものになる」と話されていました。
それぞれの蒸溜所が異なる技術や文化を持ち、全員が異なっていることこそが、業界全体の鍵となると。
また、これからは「真正性(オーセンティシティ)」がより重要視される時代になると。
自社で一貫して造る姿勢や、その土地で造るストーリーこそが、世界が日本に求める「職人技」の証明となっていくと。
「私の辞書に、競争という単語はありません!」
業界の未来を象徴する素晴らしいエピソードを、静岡蒸溜所(ガイアフロー)の創業者中村氏のブログで拝見しました。
2024年に開催された「World Whisky Forum」での一幕です。
キリンのマスター・ブレンダー田中城太氏が、ライバルとの競争について問われた際、「私の辞書に、競争という単語はありません!」と高らかに宣言されたそうです。
かつての不況を肩を寄せ合って乗り越えてきた造り手たちにとって、相手を打ち負かす「競争」ではなく、互いにリスペクトし、応援し合いながら市場全体を盛り上げるという姿勢は共通の想いです。
変化を恐れず、互いに心を開き、高め合う。
そんな造り手たちの想いが溶け込んだウイスキーが、これから私たちのグラスをますます豊かに彩ってくれそうです。
Bar Little Happiness では、笹の川酒造・安積蒸溜所のウイスキーも大切にご用意しています。
安積の「未来への系譜」を、ぜひその舌で確かめてみてください。
4回にわたるフェスレポート、最後までお付き合いいただきありがとうございました!
↓
初めから読めます。


出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
「ウイスキーもラムも、作り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto) 株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。
2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。
• 多店舗経営: 本店に加え、カジュアルに愉しめる姉妹店「Rum&WhiskyハイボールBar」を直営。
• オンライン事業: 全国へ厳選ボトルを小瓶で届けるオンラインショップ運営。
• 執筆・情報発信: 専門コラム【ウイスキーとラムの手帖】を執筆。
・創業ストーリー:22歳、ワーキングプアだった私が見つけた光
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!