第2部:MRI研究者という異色の経歴を持つ弟の「樽9割シェリー」の設計図と、200年目の品質へのビジョン
2025.12.14
▶️第一部は広島・呉の挑戦:失われた「古き良きマッカラン」の芳香を追う兄弟の物語
MRI研究者による「時間のデザイン」
家業を継いだのは兄で、
その兄に誘われ、ウイスキー造りという新しい柱を設計したのは、弟でした。
弟は、ふつうの後継者とは異なる道を歩んできました。
京都大学で医用画像(MRI)の研究にキャリアを積んだ、生粋の科学者です。
彼が蒸留所に立ってウイスキー造りを始めた理由。
それは、ウイスキー造りの核心を、科学者として捉えているからです。

彼は言います。
「ウイスキー造りもMRIの研究も、究極で言えば一緒。自然現象に対し、人間がどう都合よくやるか」
MRIが人体内の見えない情報を映像化するように、ウイスキー造りもまた、自然現象である「熟成」という「時間の流れそのもの」をデザインすることだと彼は考えました。
彼は目先の売上や流行ではなく、「30年後の創業200年目に、理想の味が残るか」という超長期的な視点で、この挑戦の青写真を緻密に設計しているのです。
科学的アプローチが生んだ「風味の土台」
目標とする「昔のマッカラン」の風味に近づけるため、弟は製造工程の土台を、科学的なアプローチで固めます。
- シェリー樽への特化(9割の傾倒):
弟が導き出した答えの一つが「樽」です。
目標とする濃厚な風味を最短で実現するため、樽在庫の9割を、力強い香味をもたらすオロロソシェリー樽で占めるという、常識外れの特異な戦略をとっています。
これは、樽コストが高騰する中でも品質を最優先した結果です。(シェリー樽は一般的な樽より、ものすごく高いです)
- 酵母と時間へのこだわり(最大114時間):
香味を豊かにするエール酵母を併用し、一般的な蒸留所よりも長い90時間から最長114時間かけて発酵させます 。
長時間の発酵は、第1部で採り込んだ「重い成分」が熟成で美味しく変わるための、複雑で強い風味の土台を築きます。
- 低投資と高効率(1億円の戦略):
一般的な新規蒸留所の数分の1にあたる1億円で事業を立ち上げました。
この低投資により、製品を手に取りやすい価格(8,500円)で提供しつつ、年間生産量140樽、年間リリース量60樽に抑えれています。
規模を拡大しないことで、自分たちが決めた速度と品質を守るための設計です。
弟が設計しているのは、次のヒット商品ではありません。
次の10年でもありません。
創業200年目(30年後)に、その味が語られているかどうか。
その一点だけを基準に、全てが組み立てられていいます。
焦らない。今のキャッシュに執着しない。
170年企業であるプライドを感じました。
次回・最終回は、「兄弟が描く一本の線__呉で育つ「まだ名前のない答え」
お見逃しなく🔔
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
Bar Little Happiness 谷本美香
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!