第3話:兄弟が描く一本の線 — 呉で育つ「まだ名前のない答え」・瀬戸内蒸溜所
2025.12.15
兄弟が描く一本の線 — 呉で育つ「まだ名前のない答え」
第一話はこちら▶️広島でマッカランを作る?
第二話はこちら▶️MRI研究者が作る?!
兄が追い続けた過去の記憶と、弟が設計した未来の青写真。
二人の情熱は、広島県呉という土地で、いよいよ一本の線になります。
瀬戸内の試練:制約から生まれた「熟成加速」の強み
瀬戸内海式気候に属する呉は、ウイスキーの熟成において、スコットランドとは全く異なる厳しい試練を樽に与えます。
夏場は時に40℃に達し、冬場でも蒸溜所の設備熱によって最低10℃を下回らないという、激しい温度環境が特徴です。
この環境は、スコットランドの数倍にあたる高蒸発率をもたらします。

(原酒はかなりしっかり色が出ていました。)
初めて原酒をボトリングした際、この高い蒸発率が積み重なり、樽の中身が20%以上も減っているという厳しい現実に直面しました。
もともとこの建物は瓶詰めの工場でしたが、2000年代にあった芸予地震で機械が壊れて以降、空き家となっていた場所を活用しようと考えたことが、蒸溜棟と熟成庫を一体化させた珍しい構造に繋がりました。

(樽の真横に蒸留機がありました。)
この場所の「制約」から生まれた一体型構造こそが、彼らにとっての新たな強みとなりました。
設備から発生する熱によって冬場でも最低10℃を保つため、熟成が早く進行します。
この熱と高蒸発率の特性が相まって、原酒と樽の接触を促し、短期間での熟成環境を実現しています。
彼らは、1年熟成、2年熟成で試験的なリリースを行い、この環境での短期間熟成の可能性を精力的に追求してきました。
樽に込めた品質への絶対的なこだわり
彼らの品質へのこだわりは、樽の使い方にも現れています。
樽の成分が最も力強い「ファーストフィル(一回目に使用する樽)」からのみウイスキーを造ることを原則としています。
では、香味が弱まった「セカンドフィル(二回目に使用する樽)」はどうするのでしょうか。
彼らはこれを廃棄せず、日本酒蔵の強みを活かし、梅酒を熟成させることに使用しています。
これは、ウイスキーの品質に妥協しない姿勢と、資源を無駄にしない持続可能な酒造りの姿勢を両立させている証拠です。

「兄弟が信じる答え」
そして、温暖な環境を味方につけ、短期間で重厚さを増したウイスキーは、最終的にアルコール度数47%で、全てシングルカスク加水タイプとして瓶詰めされます。
ウイスキーは通常、複数の樽の原酒をブレンドして均一な味を目指しますが、「シングルカスク(単一の樽)」でリリースし、ボトル裏にロットNoを記載するということは、「樽ごとに異なる個性と品質」に自信を持っている証拠です。
そのため、お客様はボトルを買うたびに、微妙に異なる味の発見を楽しむことになるかもしれません。

彼らがつくろうとしているのは、市場の流行に流された「売れる答え」ではなく、「古き良き憧憬」を現代に再現するという、自分たちが信じる答えそのものです。
30年後の創業200周年に、彼らの目指す究極のウイスキーができているのか。
呉の小さな蒸留所で、兄の記憶と弟の設計図が交差するこのウイスキーは、ゆっくりと確実に、日本のウイスキー史に新しい一本の線を描きつつあります。


リトハピでは、「ニューボーン瀬戸内 (AGED 2 YEARS )」 :「ニューボーン瀬戸内 (AGED 1 YEAR)」: 「シングルモルトジャパニーズウイスキー 瀬戸内」:「ウイスキー梅酒」をご用意しています。
ノンピートなので、スムースなウイスキーです。1年、2年、シングルモルト・・・。
私個人的には、2年が一番好きです🥃
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
Bar Little Happiness 谷本美香
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!