三郎丸蒸留所見学体験記⑤|100年先の逆転劇を仕込む —— 「聖域」で解くスモーキーなパズルと、終わらない発明
2026.2.08
三郎丸蒸留所の旅も、いよいよ最終回です。
最後にお届けするのは、「聖域」ブレンダー室。
そして、稲垣社長がこの場所から描く、ジャパニーズウイスキーの壮大な未来予想図です。
職人の「組み込み」が、琥珀色のパズルを解く
まだ一般公開されていないブレンダー室。今後、一般公開の予定だそうです!
壁一面に並ぶシングルモルトのサンプルは、まるで緻密なパズルのピースのようです。


稲垣社長は、この一つひとつの原酒を組み合わせて一つの作品を造り上げる工程を、富山の伝統的な木工細工(組子)の繊細さに重ね合わせています。
異なるパーツがぴたりとはまり、一つの美しい文様を描き出す——。
その瞬間に、三郎丸の「味」が決定されるのです。
「海」と「陸」—— 煙のパズルが生む「ラバーズ(恋人たち)」
三郎丸のアイデンティティは、強烈なスモーキーさにあります。
その設計図は、驚くほど論理的に描き分けられていました。


- 海(アイラ)のピート: 稲垣社長が「本当に貴重」と語る素材。潮風や海藻のようなニュアンスを持ち、柔らかく余韻が長い「女性的」な性質。
- 陸(内陸)のピート: 大地や枝葉のようなドライな質感。50ppm〜80ppmという圧倒的なパンチ力で味の骨格を作る。

この対極にある二つの個性を響かせたのが、「ラバーズ(THE LOVERS)」です。
今回、念願のカスクストレングスを試飲させていただきました。(飲んことがないと言ったら出してくださった歓喜!)
社長いわく、カスクストレングスではこの二つが激しく主張し合い、まるで「夫婦喧嘩」のように火花を散らしていること。
私には、それが喧嘩というより、「自立した二人が深いところで繋がっている」ような、心地よい緊張感に感じられました。
リトハピでも扱っている加水タイプは、信頼しあった二人が正面から微笑んでいる。そんな穏やかなピート!

さらに、「三郎丸Ⅳ」から「Ⅴ」にかけての進化の裏には、自ら培養した「成熟酵母」の存在もありました。
ドライな質感から、よりリッチな味わいへ。
社長に質問しすぎて時間がなくなってしまい、写真がほとんどない&花里チーフブレンダーのお話もほとんど聞けなかったことが心残りすぎるので、近いうちにリベンジしますので、またコラムで紹介します!

100年後の未来へ繋ぐバトン —— 「逆転」に向けた壮大な種まき
稲垣社長は、日本のウイスキー界全体が本場スコットランドに対して「100年の歴史の差」があるという危機感を常に持っています。
しかしその瞳は、絶望ではなく100年後の「逆転」を見据えていました。
今、心血を注いでまいている「種」は、三郎丸という一蒸留所の枠を遥かに超えた、日本ウイスキー界全体のインフラ整備という名の種です。

• 「樽」という名のインフラ:
日本に100人もいないとされる樽職人を育て、他社の樽修理も受け入れる再生型樽工房「Re:COOPERAGE」。

• 「多様性」という名のインフラ:
日本の小規模蒸留所の原酒を世界へ届け、共に品質を高め合う日本初のボトラーズ事業「T&T TOYAMA」。(スコッチのボトラーズ・蒸溜所コンサルティングetc///)

(T&T TOYAMAのボトルも、全く意識してなかったけど、リトハピに何本かありました。ラベルの「色使いが素敵❣️フルーティなオーヘントッシャンと、クリーミーなシェリー樽のアルターベーン、しっかりピートの三郎丸3年。)
「三郎丸が一番になる」ことではなく、「100年後の日本が、世界一のウイスキー産地になる」という共通のゴール。
そのために動く社長の言葉は、リーダーの訓示などではなく、同じ時代を生き、同じ困難に立ち向かう「同志へのエール」、「共存共栄への祈り」なのだと、私は感じました。
この壮大な「種まき」の原点は、かつて出会った1960年の三郎丸の原酒にあるのではないかと思います。
会ったことのない曾祖父が遺したそのウイスキーを口にした瞬間、半世紀以上の時を超えて、先代の魂と自分の生きる現代が一本の線で繋がったような感覚を覚えたそうです。
「ここでみんなに知られないで、なくなっていくのは、あんまりにももったいない」。
その言葉からは、単なる経営戦略や事業の拡大といった枠を超えた、曾祖父の生きた証をこの世に繋ぎ止めたいという、切実なまでの想いが伝わってきます。
誰にも知られず消えゆこうとしていた遺産を、もう一度世界に届ける。
その使命感こそが、社長を突き動かす真の原動力なのかもしれません。
今、仕込まれた一滴、発明された「ZEMON」、そして一軒一軒歩いて集めた地元の信頼。
そのすべてが時を超えるバトンとなり、また50年、100年後の誰かを勇気づけていく。
かつて曾祖父の原酒が稲垣社長の心を動かしたように、5代目当主・稲垣貴彦が遺す「未来のヴィンテージ」もまた、この地で生きる誰かの心に、消えない灯をともし続けるに違いありません。
三郎丸蒸留所。
そこは、歴史ある建物の屋根の下で、「なくてもともと」と無邪気に笑う発明家社長が、世界を変える希望を仕込む場所でした。


三郎丸は、リトハピのカウンターで。
刺激を受けすぎて、私の中でパワースポット化した三郎丸。
現在、過去のリリースも含めて続々入荷中です!
たくさん在庫を確保できたものから、奇跡的に1本だけ手に入れられた貴重なボトルまで。
物語の続きは、ぜひリトハピのカウンターで🥃

「ウイスキーもラムも、作り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto) 株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。
2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。
• 多店舗経営: 本店に加え、カジュアルに愉しめる姉妹店「Rum&WhiskyハイボールBar」を直営。
• オンライン事業: 全国へ厳選ボトルを小瓶で届けるオンラインショップ運営。
• 執筆・情報発信: 専門コラム【ウイスキーとラムの手帖】を執筆。
・創業ストーリー:22歳、ワーキングプアだった私が見つけた光。
「ウイスキーもラムも、作り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!