アイラの王から贈られた、私だけの「領地」。 ラフロイグとリトハピの絆
2025.12.25
「正露丸のような香りがするけれど、どこか癖になる」
アイラモルトの代名詞とも言えるラフロイグ10年。
カウンターでこのボトルをお出しするたび、そんな会話が生まれます。
私にとってこの一本は、単なるウイスキー以上の、とても特別な思い入れがあります。
今から16年前の2009年。
私はその「聖地」であるアイラ島へ渡り、ラフロイグ蒸留所の土を踏みました。
そこで私は、ラフロイグの土地を「買いました」。

それは、蒸留所の敷地内にある自分だけの「1平方フィート」の土地を手に入れるという、ファンにとって最高の贅沢。
当時はネットで何でも完結する時代ではなく、現地を訪れて自分の場所をこの目で見ることが、本当の意味での「領主」になる儀式のようなものでした。
びゅんびゅん吹く風に消えた旗
自分の土地は、蒸留所のすぐ裏手に広がる湿地帯にありました。
「ここが私の土地だ!」と印をつけるために、小さな旗を立てて写真を撮ったのですが……。

アイラの風は想像以上に力強く、びゅんびゅんとお構いなしに吹き抜けていきます。
私の立てた旗は、きっとシャッターを切った直後には、どこか遠くへ飛んでいってしまったことでしょう(笑)。
それでも、あの冷たい風に吹かれながら「私はこの蒸留所の一部なんだ」と実感したあの瞬間の高揚感は、今も私の宝物です。
「これは酒ではない、薬だ」
そんなラフロイグを語る上で欠かせないのが、あの強烈なヨードの香り。
実はこの香りが、かつてこの蒸留所の絶体絶命のピンチを救った「最強の武器」だった伝説があります。
1920年代、アメリカの禁酒法時代。
あらゆるお酒が取り締まられる中、当時のオーナーは堂々とラフロイグをアメリカへ輸出していました。
不審がる税関の役人に、彼はこう言い放ったといいます。
「これはお酒ではない。医薬効果のある『薬』だ」
あまりに強烈な薬品臭に、役人も「なるほど、これを好き好んで飲む奴はいないだろう。
これは確かに薬だ」と納得し、薬局での販売が許可された……!
今、私たちがカウンターで愉しんでいるこの個性は、かつてのオーナーの機転(?)から続いたのです。

琥珀色の時間をご用意して
2009年の旅で、私が現地で感じたピートの香りと、自分の領地を歩いた時の特別な思い出。
ラフロイグをみるたびに、あの日のアイラの風と、どこかへ飛んでいった私の小さな旗のことを思い出します。
2025年も、いよいよ残りわずか。
クリスマスの今夜は「薬」として世界を渡ったラフロイグの歴史を肴に。
遠い異国の、リトハピの小さな領地に思いを馳せながら、静かな琥珀色の時間をご用意してお待ちしております
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
Bar Little Happiness 谷本美香
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!