20年目の原点回帰。「目の前の一人」を感動させるということ。
2026.2.10
この1年は、これまで紡いできた「20の記憶」を、感謝を込めて振り返っていきたいと思います。
Thanks 20th Anniversary Vol1はこちら
「まずは、目の前の一人のお客様を感動させること」
尊敬する経営者が、ある勉強会で答えたこの言葉が、私の心に深く、響いています。
2006年に22歳で創業してから、今年で20年目を迎えました。
何も持たずにこの世界に飛び込んだあの頃の私には、目の前のお客様に喜んでいただくこと、ただそれだけが唯一の、そして最強の行動原理でした。
一方で、若さや無知に依存したこの業界の在り方に、強い違和感を抱いていました。
その問題意識こそが私の原動力となり、組織化や仕組みづくりに心血を注ぐ日々が始まりました。
バーテンダーという仕事が搾取されず、志を持つ人が報われる場所を創ること。
それは私にとって、自分の命を懸けるに値する「正義」でした。
しかし、店を続け、スタッフを抱え、組織として成長させようとする中で、いつしか視界は変容していきました。
経営者として「全体最適」を考え、組織をどう動かすか、業界の構造をどう変えるか。
そんな大きな問いばかりに目が行き、システムや効率というフィルターを通して店を見るようになり、全体を俯瞰することばかりに心血を注いでいた時期がありました。
それは経営を存続させるための正義ではありましたが、けれど、そこには「勘違い」や「慢心」も混じっていたのだと、今はわかります。
「育成」という名のフィルターが隠していたもの
かつての私は、頻繁に蒸留所を訪ね、造り手さんの声を直接聞きに行っていました。
とにかくその現場に行って、その人たちの声を聞くことが楽しくて、尊くて、大好きでした。



けれど、組織としての責任が大きくなるにつれ、その目的はいつしか「自分の純粋な好奇心」から「人材育成の一環」へとすり替わっていきました。
「どうすれば、うちのスタッフがお客様に感動を伝えられるだろうか」
「この話をどう持ち帰れば、店の仕組みとして機能するだろうか」
そんなふうにしか、蒸留所の景色を見ていなかったように思います。
蒸留所に行くときだけでなく、経営のあらゆる場面で、私は情報を「仕入れ」に行くような姿勢でいました。
数字を追うため、効率を上げるため。
そうしてフィルターを通した情報ばかりを追う私の心は、一番大切な空気や、生の声を聞き逃したり、こぼしたりしていたのだと思います。
なぜそう言い切れるのか。
それは、その頃に聞いたはずのウイスキーやラム酒に関わる人たちの言葉や情熱を、今ほど鮮明に思い出すことができないからです。
あの頃、情報を「仕入れ」に行っていた私の心には、無意識のうちにこぼれ落ちていたものがあったのだと思います。
手放した先に残った、本物の納得
数年前、私はそれまで必死に積み上げてきた「組織としての形」を手放す決断をしました。
それは世間一般の成長曲線から見れば、逆行する選択だったのかもしれません。
しかし、私にとっては、自分の「正義」が納得できる場所へ帰るための、避けては通れない通過点でした。
組織という形を手放し、再びひとりでカウンターに立つ。
今の私は、造り手さんのもとへ行くとき、ただ純粋に「知りたい!」「この人たちの気持ちを聞きたい!」という初期衝動に従っています。
仕事のためでも、育成のためでもなく、一人の人間として、その情熱に触れたい。
そうして心に直接刻まれた物語を、フィルターを通さず、そのままの純度でお客様へと届けたい。
ボトルの背景にある物語を語るとき、お客様が驚き、瞳を輝かせる。
その瞬間の喜びを、私自身も心から共有できている。
この一対一の熱狂こそが、すべての原点だったのだと思い出しました。

目の前の一人を感動させられない人間に、未来は変えられない
「目の前の一人を感動させること」
当たり前すぎて、あるいは最低前提すぎて。
尊敬する経営者の言葉を今、実感を伴う「自分の言葉」として受け止めています。
一周回って辿り着いた今の私には、これこそが究極の経営であり、生き方なのだという確信があります。
勘違いも、慢心も、そして深い葛藤も。
すべての遠回りがあったからこそ、今、私は真っさらな気持ちで「目の前の一人」と向き合えています。
「また広島に来たら必ず寄りたい」 そう言っていただける一人のために、今日も私はカウンターに立ち、目の前の一杯に心を尽くします。
「ウイスキーもラムも、作り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto) 株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。
2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。
• 多店舗経営: 本店に加え、カジュアルに愉しめる姉妹店「Rum&WhiskyハイボールBar」を直営。
• オンライン事業: 全国へ厳選ボトルを小瓶で届けるオンラインショップ運営。
• 執筆・情報発信: 専門コラム【ウイスキーとラムの手帖】を執筆。
・創業ストーリー:22歳、ワーキングプアだった私が見つけた光。
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!