クライヌリッシュ14年──山猫に守られた、ハイランドの宝石
2025.11.16
ワクシー?!
グラスから立ち上るのは、ハチミツのような甘く豊かな香り。
そこに、潮の香りと、洋ナシのようなフルーティーさが重なって、なんとも言えない複雑さ。
口に含むと、ワックスのようなクリーミーな質感──これがクライヌリッシュの最大の特徴です。
「ワクシー(waxy)」と表現されるこの独特の口当たりは、他のウイスキーではなかなか味わえません。
シルクのような滑らかさと、どこか官能的な粘度。
「スコッチウイスキーのすべての要素を含んでいる名酒中の名酒」と評されることがありますが、まさにその通り。
甘さ、フルーティーさ、スパイシーさ、潮の香り──どれひとつ突出することなく、完璧なバランスで調和している。
これが、モルトマニアにクライヌリッシュが愛される理由です。

山猫の物語
クライヌリッシュのボトルラベル、よく見ると猫が描かれています。
「え、ウイスキーに猫?」と思うかもしれませんが、スコットランド山猫(Scottish Wildcat)という野生の山猫で、別名「ハイランド・タイガー」と呼ばれています。
かつてこの北ハイランド地方を駆け回っていた、本物の野生動物です。
この山猫が描かれているのには、ちゃんとした理由があります。
1819年にクライヌリッシュ蒸溜所を創設したのは、サザーランド公爵(創設当時はスタッフォード侯爵)。
その公爵家の副紋章が、まさにこの山猫でした。
つまり、創業者の家の顔が、そのまま蒸溜所のシンボルになったわけです。
公爵家がなぜ山猫を紋章に選んだのかといえば、この地に実際に山猫が生息していて、その野生の気高さ、飼いならされない精神に惹かれたから。
ハイランド地方の誇りを象徴する存在だったんでしょう。
ところが今、この山猫は絶滅の危機に瀕しています。
野生に残っているのは、わずか35頭程度だと言われています。
イエネコとの交配で純血種がどんどん失われていて、人里離れた山奥でひっそりと生きているだけ。
実際に蒸溜所を訪れた時、入口の近くに大きな山猫の看板がありました。
まるで「ここは俺が守っている」と言わんばかりの、堂々とした佇まい。
絶滅危惧種になってもなお、クライヌリッシュの守護者として君臨しているんです。
200年前から変わらず、山猫がこの蒸溜所を見守り続けている。
そう思うと、グラスに注ぐ一杯が、少しだけ特別なものに感じられます。

「金色の湿地」という名前
「クライヌリッシュ(Clynelish)」という名前、ゲール語で「金色の湿地」を意味します。
スコットランド北部、サザーランド地方のブローラという小さな村に、この蒸溜所はあります。
ここは本当に静かな場所。
実際に訪れた時、驚くほど人がいませんでした。
日本ではモルトマニアに人気の銘柄なので、てっきり観光客で賑わっているかと思ったら、ほぼ貸切状態(笑)。(当時、日本ではほぼノンメジャーなグレングラントは、観光客が押し寄せていました。)
ゆっくりと見学できたのはありがたかったですが、国によって人気のある銘柄が全然違うんだな、と改めて実感しました。
静かな蒸溜所、そして入口に佇む山猫の看板。
人里離れたハイランドの奥深く、ひっそりと佇むこの場所が、まさに野生の山猫の領域のように感じられました。



ジョニーウォーカーの秘密
実は、クライヌリッシュで造られる原酒の約95%は、ブレンデッド用に使われています。
その行き先は、世界一飲まれているスコッチウイスキー「ジョニーウォーカー」。
クライヌリッシュは、ジョニーウォーカーの「まったりとした熟成感」を支える、主要原酒のひとつなのです。
つまり、シングルモルトとして私たちが楽しめるクライヌリッシュ14年は、全体のわずか5%程度。
希少性が高いからこそ、通好みの銘柄として愛されているわけです。

バーで楽しむ、クライヌリッシュの魅力
私のおすすめは、バー専用チョコレート「バタースコッチ」とストレートで。
まず、グラスに鼻を近づけて、ハチミツの香りを楽しんでください。そして一口。
ワクシーな質感が舌の上を滑るように広がって、フルーティーさとスパイシーさが交互に訪れます。
チョコレートを一口。クライヌリッシュとのお口の中のマリアージュは、バータイムを特別なものにしてくれます。
クライヌリッシュ14年。山猫に守られた、ハイランドの宝石。
ぜひ、広島Bar Little Happinessでお愉しみください。
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
Bar Little Happiness
谷本美香