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【前編】リトハピという場所

2025.5.08

―― 空間の在り方を問い直した19年の軌跡 ――

リトルハピネスは、今年で19年目を迎えました。
これまで積み重ねてきた営みの中には、数えきれない挑戦と選択がありました。
3本の記事に分けて、「なぜ今の形になったのか」「どんな想いでこの場所を育ててきたのか」を記録しました。
前編ではまず、「空間」の成り立ちと、そこに込めた設計の意図について綴っています。

これまで19年間、ウイスキーとラム酒のバーを経営してきた。
売上も伸び、それは確かに“成果”と呼べるものだった。
けれど、どこかで“違和感”があった。

「リトハピを選んでよかった。ありがとう。」
そう言っていただけることは嬉しかったし、誇らしかった。
けれどその一方で、心のどこかではずっと、何かが擦り減っていく感覚があった。

誰よりも空気を読み、誰よりも先回りして──
数あるお店の中からリトハピを選び、お越しいただいたすべてのお客様に、
「ここを選んでよかった」と思ってもらえるよう努力してきた。

お酒が好きな人ばかりではない。
会話を求める人、誰かに連れられてきた人、空気に敏感な人──


そのすべてに「リトハピでよかった」と感じてもらうため、
目を配り、言葉を選び、空気の流れに寄り添い続けた。

その結果、売上は伸び、支持も得た。
未来を信じて、何度も何度も新しい仕組みづくりに挑んだ。


けれど、すべての仮説を実際に試し、何度も仕組みを見直す中で、
私は次第に「構造そのものに限界があるのではないか」と感じるようになった。

どれだけ力を注いでも、土台そのものが脆ければ、成果は積み上がっていかない。


そして、その脆いビジネススキームの元で、新しいものを一緒に生み出してくれるような人には、そうそう出会えない。

これが小規模企業の現実だ。

どんな努力も空回りし、未来は開かれない。そんなビジネスの真実に、私は行き着いた。

“誰にでも届くように届ける”ことをやめて、“届くべき人にだけ、ちゃんと届くように設計する”という視点に切り替えた。

数年前に電子オーダーを導入したのは、言葉を最小限にするための温度のない仕組みではない。
むしろ、“言葉がなくても伝わる空間”を成立させるための手段だった。


それは「ウイスキーやラムが好き」「静かな空間が好き」という前提を持つお客様にとっては、自由度と没入感を高める仕掛けになった。

自分のペースでボトルを選び、自分の感覚で味わいたい── 一緒に来た人と絆を深めたい。
そんな方にとって、言葉少なな設計は大きな付加価値になる。

自然と会話が成り立つような方々と心地よく繋がっていけるように、来店導線そのものを静かに調整していった。

伝えすぎないこと、頑張りすぎないこと。
それらは「削った」のではなく、「必要なものだけを残す丁寧な設計」だった。


すり減るような“頑張り”を前提にしない。

それは、私にとっての在り方を根本から見直す、大きな一歩だった。


この空間の奥にある「選ぶこと」と「手放すこと」の話を、続けて綴っています。
▶︎ 【中編】選ぶ自由、選ばれる覚悟

*写真は、ニュージーランドを訪れた際に撮影した夜空です。
眩しさのない暗闇に、星がひとつずつ光り、空にはわずかな朝の光が差し始めていました。
リトハピの空間もまた、本当に必要なものだけを残した結果、生まれた形です。