グレンモーレンジ A Tale of Spices | ジャケ買いしても後悔しない!
2025.11.07
「ジャケ買い」という言葉の裏側
「ジャケ買い」という言葉には、どこか揶揄するニュアンスが含まれています。
中身を吟味せず、見た目だけで選ぶ軽率さ。本質を見ていない浅はかさ。
そんな批判が込められているように感じます。
でも、何を隠そう、リトハピはだいたいジャケ買いです。
味わいだけでなく、見た目も、ストーリーも、すべてがウイスキーの世界観。
味だけじゃない。目でも、心でも楽しめるものだと、私は思います。
A Tale of Spices – まずはスペックから
「A Tale of Spices」は、グレンモーレンジの最高蒸溜・製造責任者Dr. Billが世界中のスパイスマーケットの「色と香り」に魅了されて生まれました。
「一口ごとに新しい風味と香りがある」体験を目指し、グレンモーレンジ史上初めて4種類の樽を使用しています。
- モロッコ産赤ワイン樽(フレンチオーク) ← グレンモーレンジ史上初
- 新しいチャードオーク樽
- シェーブド&トースト赤ワイン樽
- PXシェリー樽
特に注目すべきは、モロッコ産赤ワイン樽の使用です。
これまでグレンモーレンジは様々な樽で実験を重ねてきましたが、モロッコ産を使うのは今回が初めてです。
Dr. Billは、スパイスの複雑さを表現するために、これまでにない組み合わせを選びました。
ボトルデザインも美しいです。
「A Tale of」シリーズの特徴である、アーティストとのコラボレーションによるラベルデザインは、棚に並んだときに目を引きます。
グレンモーレンジは、意図的にそうデザインしています。

「ジャケ買い」を肯定する公式戦略
グレンモーレンジが「ジャケ買い」を狙っているという証拠は、公式の発言にあります。
Cool Huntingのインタビューで、グレンモーレンジのマーケティングチームはこう語っています:
“it’s also an opportunity to attract those who may not be familiar with the brand or those who are attracted to a specific wood or finish—a win for everyone.”
「ブランドをまだ知らない人々や、特定の樽やフィニッシュに惹かれる人々を引きつける機会でもある。みんなにとってWin-Winだ。」
つまり、グレンモーレンジは美しいデザインを「入り口」として積極的に活用しているのです。
これは、ウイスキー業界では珍しいアプローチです。
多くのブランドは「味わい」「香り」「熟成年数」を前面に出しますが、グレンモーレンジは「見た目」も同じくらい重要視しています。
アーティストコラボレーションの世界
「A Tale of」シリーズの特徴は、毎回異なるアーティストとコラボレーションしていることです。
過去のコラボレーション:
- A Tale of Tokyo(2023年7月): 山口晃 – 日本の著名画家。マキシマリストスタイルで知られ、伝統的な日本画の技法と現代的な視点を融合させています。
- A Tale of the Forest(2022年10月): Pom Chan(ポム・チャン) – イラストレーター。
- A Tale of Ice Cream(2024年9月): 再び山口晃とのコラボレーション。
なぜグレンモーレンジはアートに投資するのでしょうか?
それは、ウイスキーを「嗜好品」ではなく「ラグジュアリー商品」として位置づけているからです。
LVMH戦略 – ラグジュアリーブランドとしての美学
グレンモーレンジは2004年から、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)傘下にあります。
LVMHは、ルイ・ヴィトン、ディオール、フェンディなど、世界を代表するラグジュアリーブランドを擁する企業です。
Forbesの記事では、こう評されています:
“LVMH turned Glenmorangie from a niche whisky into a global brand.”
「LVMHは、グレンモーレンジをニッチなウイスキーからグローバルブランドに変えた。」
LVMHの戦略は、単に販売量を増やすことではありません。
ブランドの「美学」を確立し、ラグジュアリー商品として再定義することです。
ルイ・ヴィトンのバッグが機能だけでなくデザインで選ばれるように、グレンモーレンジのウイスキーも味わいだけでなくデザインで選ばれるのです。
「A Tale of」シリーズのアーティストコラボレーションは、この戦略の一環です。
ボトルデザインへのこだわりは、LVMH傘下のラグジュアリーブランドとして当然の選択なのです。
Dr. Billの哲学 – 70-80%はアート
グレンモーレンジの最高蒸溜・製造責任者Dr. Billは、ウイスキー造りについてこう語っています:
“The whiskies that we create are maybe 20 to 30% scientifically driven; the rest has more to do with art, craft, a passion and feeling.”
「私たちが造るウイスキーは、おそらく20〜30%が科学的に駆動されている。残りは、アート、クラフト、情熱、感覚に関係している。」
つまり、70〜80%はアートだと彼は言います。
これは、ウイスキー業界では珍しい発言です。
多くの蒸留家は「科学」「伝統」「技術」を強調します。しかし、Dr. Billは「アート」「情熱」「感覚」を前面に出します。
この哲学が、ボトルデザインへのこだわりに繋がっています。
ウイスキー造りが70〜80%アートなら、ボトルデザインもアートであるべきです。
見た目も、味わいも、すべてが「作品」なのです。
蒸溜所訪問体験 – キリンのシンボル
以前、スコットランドを訪れた際にグレンモーレンジ蒸溜所にも立ち寄りました。
蒸溜所の外観は美しく、入り口にはグレンモーレンジのシンボルであるキリンの像があります。
そのキリンと一緒に写真を撮ったことを覚えています。

[2018年 スコットランド グレンモーレンジ蒸溜所にて]
グレンモーレンジが誇るスコットランドで最も高いスチルに由来し、キリンがキャラクターになっています。
そのスチルのネック部分は5.14メートル – 成体のオスキリンと同じ高さです。
この高さが、グレンモーレンジの繊細でフルーティーなスピリッツを生みます。
蒸溜所のショップには、キリンのグッズがたくさんありました。
ボトルデザインから、蒸溜所の建築、グッズまで、すべてが「グレンモーレンジ」という世界観を形成していました!

結論 – ジャケ買いでも後悔しない理由
「A Tale of Spices」は、見た目も、味わいも、ストーリーも、すべてが計算されています。
- 4種類の樽(モロッコ産赤ワイン樽は史上初)
- アーティストコラボレーション(「A Tale of」シリーズの伝統)
- LVMH戦略(ラグジュアリーブランドとしての美学)
- Dr. Billの哲学(70-80%はアート)
- ブランドアイデンティティ(キリンのシンボル)
これらすべてが、一つのボトルに凝縮されています。
「ジャケ買い」でも後悔はしませんよ!
グレンモーレンジが意図した「入り口」です。美しいボトルに惹かれて手に取り、味わいを楽しみ、ストーリーを知る。
それが、グレンモーレンジの目指す「体験」なのですから。
ウイスキーは、味だけでなく、目でも、心でも楽しめるもの。「A Tale of Spices」は、その完璧な証明です。
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
Bar Little Happiness 谷本美香