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【万博レポート】「いのちの未来」パビリオンで考えた、“曖昧さを選ぶ自由”という希望

2025.7.20

大阪・関西万博の注目パビリオン「いのちの未来」を訪れたとき、
私は、技術と命のこれからについて、感覚で受け取るものがありました。

この体験を通じて思い出したのは、
日々私が営んでいるBarのカウンターで交わされる、言葉にならない時間の記憶でした。

誰かと過ごした夜の、はっきりとした会話は思い出せなくても、
その空気や温度だけがふと蘇ることがある。
それこそが、「曖昧だからこそ深く残るもの」の力なのだと気づかされました。

この体験記では、展示空間から得た気づきと、
「記録しない自由」「曖昧なまま残す価値」、そしてBarという空間が持つ役割について綴ります。


*動画部分はネタバレを含みます。行かれる予定のある方は動画は開かれないようご注意ください

「いのちの未来」パビリオンとは?|技術が命に触れるとき

このパビリオンは、ロボット研究者・石黒浩氏が監修。


科学技術がいのちとどう関わり、
私たちに何を問いかけるのかをテーマに構成されています。

石黒氏の言葉が印象的でした。

「人は自ら未来をデザインし、生きたいいのちを生きられる」


技術進歩は、選べるという自由”を私たちに返す存在なのだと、感じました。


【体験記】水に包まれるような静かな問い

展示は音ではなく、感触のようなナレーションが骨伝導で伝わる構造。
静かな水の流れに包まれるように進む空間には、縄文土偶や仏像、人形たちが登場します。

人は昔から「命にかたちを与える」試みを続けてきたのだと気づかされる導入部。


やがて舞台は未来へ移り、2075年を生きる祖母と孫の物語が描かれます。

テクノロジーに支えられながら、穏やかに暮らすふたり。
しかし孫の怪我、祖母の病という局面で、命の選択が静かに提示されます。

「記憶をアンドロイドに移して生き続けるか」
「寿命をまっとうするか」

祖母は“移さない”という選択をし、誰もそれを否定しません。
その沈黙こそが、命の重さを言葉以上に伝えてくる瞬間でした。

涙が込み上げるほどの深い余韻が、心に残ります。


……と思いきや、曖昧さを残す秀逸なラスト

物語は、「おばあちゃんは人間として生を終えたのだろう」と観客に思わせたまま幕を閉じます。
……が、次の展示エリアで予想外の光景が待っていました。

ピアノを弾くおばあちゃんらしき存在。
それはアンドロイドなのか、記憶だけを移したのか、それとも別の何かなのか──
答えは提示されず、受け手に委ねられています。

この曖昧さこそが、私たちに自由な解釈と想像を許す余白となっています。


1000年後の命のかたち──「選べる姿」で生きる存在

最後の展示では、足の代わりに花のような構造を持つアンドロイドが、浮遊するように現れます。
技術が進化し、姿も、在り方も、自由に選べる未来。

しかしその未来が、単なる万能ではなく、私たちに問いかけてくるのです。


「どう生きるか」
「何を残すか」
「何を、あえて残さないか」


【考察】できることより、選ばないことに希望が宿る

できることが増える時代にこそ、「あえて、しない」という選択が意味を持つ。

記憶をすべて記録することもできるけれど、あえて曖昧なままにすることを選ぶ自由。

それは、人間の根源的な余白への愛の表れではないでしょうか。


【Barという空間の役割】記録に残らない夜が、人生に残る夜になる

私はこの展示を見ながら、 Barという空間が担っている役割の本質を改めて考えさせられました。


Barとは、記録に残る場所ではない。


SNSにはその場の写真や出来事が残るけれど、本当に心に残るのは、誰にも共有されないまま、そっと胸の奥に沈んでいくような感触かもしれません。

けれどそこには、言葉にならない時間や、ふとした温度の記憶が、確かに息づいています。

「広島でのあの夜、なんか忘れられない」


そんな曖昧であたたかな記憶が、人生の中にそっと残ってくれたら──
それこそが、私がこの場所で果たしたい役割なのかもしれません。


【まとめ】技術が進化したからこそ、「曖昧さ」をもう一度、選び取るということ

私は、技術の進歩に対してとてもポジティブです。
実際に、自分の仕事にも早い段階から積極的に取り入れてきました。


AIやロボット、デジタルツールがもたらす未来には、心から希望を感じています。
私にとって、最近の技術革新は、多くの可能性と選択肢を与えてくれました。

だからこそ、選べる時代である今、
私はあえて曖昧さを大切にする未来を信じたいのです。

すべてが明確に可視化され、記録され、効率化されていくなかで──
言葉にならなかった記憶や、説明できない感情、誰にも見せなかった感覚が、
むしろ生きたものとして深く残ることがある。

それは、技術が進化したからこそ、もう一度選びなおせるようになった美しさ。

「アナログだから良い」のではなく、
「デジタルの先に、それでもなお選びたくなる価値がある」こと。

選択肢が増えた現代において、それでも選ぶという意志こそが、
本当に大切にしたい価値観なのだと思います。

そして、そんな価値が息づいている場所こそが、
私はBarという空間だと思っています。

記録には残らないけれど、なぜか心に残る。
誰にも説明できないけれど、確かに在ったと感じられる夜。

それを信じられる未来に、私は希望を抱いています。

出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。

Bar Little Happiness 谷本美香

1000年後の未来の香りを買ってきました。

なんと4000円。誰も買っていなかったので、なかなか出会えることもないと思われます 笑

ご興味のある方はお声がけください。