白州の森で、「未来」を見た日
2026.2.26
白州の鮮やかなグリーンを見るたび、私はある「予感」に満ちた一日のことを思い出します。
それは2013年。
まだ今のようなウイスキー狂騒曲が始まる、少し前のことでした。
誰もいない白州蒸溜所と、親子の笑い声
初めて訪れた白州蒸溜所は、驚くほど静かでした。
見学者は、私ともう一組の親子4人だけ。
広大な森の中、子供たちの無邪気なはしゃぎ声が響いていて、まるでどこかの公園にピクニックにでも来たような、のどかな時間でした。
でも、一歩「貯蔵庫」へ足を踏み入れた瞬間、その空気は一変します。
「置いている」のではない、「育んでいる」
当時の日本ウイスキーはまだブームの前でした。
他の蒸溜所へ行けば、樽から中身が漏れていたり、埃を被ったまま「とりあえず置いてある」ような光景も珍しくありませんでした。
けれど、白州は違いました。
ひんやりとした中、天井まで整然と積み上げられた無数の樽。
そして、フォークリフトのような重機が、巨大な樽を運び、積み上げていく——。
未来のための樽を、ただ粛々と。
「あぁ、もしウイスキーが流行ったら、当分の間、サントリーに勝てる蒸溜所は現れない」
その徹底した管理体制を目の当たりにしたとき、彼らが世界の頂点へ独走することを確信せずにはいられませんでした。

(2013年白州蒸溜所訪問時)
試飲の一杯、「あれ? いつもと違う。薄い……?」
そんな圧倒的な光景を見た後ですから、期待値は最高潮です。
いよいよお楽しみの試飲。
案内のお姉さんから「白州ハイボールです!」と手渡されたグラス。
一口飲んで……私は、思わず自分の舌を疑いました。
「……あれ、なんだか薄くないか?」
当時、白州のハイボールといえば「10年」でした。
でも、まさにその時は、長年愛された「10年」が終売し、年数表記のない「ノンエイジ(NV)」へ切り替わる歴史の転換点だったんです。
白州蒸溜所の試飲で、私は、初めて白州ノンエイジを口にしました。
いつも飲んでいる味とあまりに違って驚いて、お姉さんに理由を聞きに行ったのを今でも覚えています。
『なぜ年数表記がなくなるのか?』
ウイスキーには「表記されている年数以上の原酒しか使ってはいけない」という厳格なルールがあります。
サントリーはあの瞬間、将来の原酒不足を冷静に見越しつつ、「これからのハイボール時代を牽引するのは、熟成感よりもこのクリーンな味わいだ」と、大きな勝負に出ました。
ブランドの伝統を守りつつ、より自由なブレンドで「白州らしさ」を繋いでいくための、苦渋の、そして攻めの決断だったと思われます。
記憶は、最高のおつまみ
今では蒸溜所のツアーも抽選制になり、予約なんて夢のまた夢。
かつて従業員さんの誕生日に「予約付きの白州旅行」をプレゼントできたあの頃が、なんだか遠い昔のようです。
残念ながら、当時の写真はほとんど残っていません。
でも、貯蔵庫で嗅いだ芳醇な匂い、ひんやりとした空気、そしてあの時の「違和感」。
それは、今でも私の舌の記憶に鮮やかに刻まれています。
この一本も、もしかしたら、2013年にあの整然と並んでいた樽の中で眠っていた一滴かもしれません。
そう思うと、なんだか愛おしくて、飲むのがもったいなくなってしまいます。
また蒸溜所見学ツアー当たらないかなーと、サントリーの蒸溜所の抽選に地味に応募し続けていますが、今のところ全滅しています。
お客様たちから、行ってきたんだよー!と聞く度に羨ましくて!!
抽選に当たり続けている強運な方、ぜひ感想を教えてください……!

出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
【この記事を書いた人】
谷本 美香(Mika Tanimoto) 株式会社 Little.m 代表取締役 / オーナーバーテンダー
広島県広島市で20年続くRum&Whisky専門店「Bar Little Happiness(リトルハピネス)」店主。
2006年の創業以来、ウイスキーとラムの感動を伝える専門家として活動しています。
バックバーには1,000本を超える希少なレア銘柄から、地元広島の「桜尾」まで幅広く取り揃えています。
• 多店舗経営: 本店に加え、カジュアルに愉しめる姉妹店「Rum&WhiskyハイボールBar」を直営。
• オンライン事業: 全国へ厳選ボトルを小瓶で届けるオンラインショップ運営。
• 執筆・情報発信: 専門コラム【ウイスキーとラムの手帖】を執筆。
・創業ストーリー:22歳、ワーキングプアだった私が見つけた光。
「ウイスキーもラムも、作り手の想いに触れたとき、もっと美味しくなる」
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!