アップルパイのりんご、胡桃の余韻へ。── G&M グレントファース 2008
2025.12.21
リトハピのバックバーの中でも、安定した品質でラインナップに厚みを持たせてくれるのが、老舗ボトラーのゴードン&マクファイル(G&M)社です。
特に彼らが手がける「蒸留所ラベル」は、その蒸留所が持つ本来のキャラクターを丁寧に引き出した、スタンダードでありながらも質の高い仕上がりが特徴です。
今回ご紹介するのは、その中からの一本、『グレントファース 2008』。
このボトルを紐解くキーワードは、幾重にも重なり、時間とともに表情を変えていく「リンゴ」の多層的なストーリーです。
影の実力者「グレントファース」の矜持
グレントファース蒸留所について、少し詳しく触れておきます。
スペイサイド地方に設立されたグレントファース蒸溜所は、長い間「ブレンデッドウイスキーのための重要な原酒」として、その名声を裏側から支えてきた存在です。
特に『バランタイン』の主要なキーモルトの一つとして知られ、ブレンダーたちからはその「華やかでフルーティなスタイル」と「一切の雑味がないクリアな酒質」を高く評価されてきました。
シングルモルトとして市場に出回ることが比較的少なかったため、かつては「隠れた名酒」のような存在でしたが、近年ではそのポテンシャルの高さが改めて注目されています。
派手な宣伝こそありませんが、ウイスキー本来の「綺麗さ」を追求する造り手にとって、グレントファースは外せない名前です。

記憶を呼び起こす「煮込んだリンゴ」のアロマ
そんなグレントファースの美点を、G&M社が見事に引き出したのがこの2008年ヴィンテージです。
グラスを近づけてまず届くのは、バニラのさやを添えてじっくりと煮込んだリンゴの芳醇な香り。
それは、瑞々しいフレッシュな果実というよりも、オーブンで熱を加えて甘みをぎゅっと凝縮させた、焼き立てのアップルパイの中にある「あのりんご」のニュアンスです。
そこへ砂糖漬けのオレンジピールや、シナモンのスパイスを纏ったラズベリーのコンポートが華やかに重なり、香りの奥行きが一段と深まっていく。
この、甘さとスパイスが溶け合う感覚こそが、綺麗なスペイサイドウイスキー。

(2018年訪問時)
緻密に計算された「味のグラデーション」
ひと口含めば、質感の良いリンゴと洋ナシの瑞々しさが、デメララシュガー(赤砂糖)の深いコクのある甘みを引き立てます。
面白いのは、ここからの変化です。
クローブの温かみのあるニュアンスは、舌の上で転がすうちにアニスや微かな胡椒へと、鮮やかにその表情を変えていきます。
この「フルーツ→甘み→スパイス」という緻密な構成は、G&M社の選定眼と熟成のコントロールがあってこそ。

胡桃(くるみ)が残す、静かな終着点
フィニッシュはミディアムボディ。
心地よいスパイスの刺激と、胡桃の香ばしいナッティな余韻が、いつまでも持続します。
ブレンデッドの屋台骨として磨かれてきた「バランスの良さ」と、シングルモルトとして花開いた「個性的な果実味」。
どこまでも綺麗で、品格を失わないスペイサイドの優等生。
今夜は、この複雑なグラデーションをゆっくりと紐解きながら….
出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。
Bar Little Happiness 谷本美香
Definitely very recommended, I hope to be able to come back here in a future Japan trip! Thank you so much, cheers from Italy!