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ウイスキーの聖地が挑んだラムの物語──アイララム バレルエイジド

2025.10.18

「アイラ島でラムを?」という驚き

アイラ島──。
ラフロイグ、ラガヴーリン、アードベッグ。スモーキーで力強いウイスキーを生み出すウイスキーの聖地として、世界中のファンが巡礼する島。

その島で、2022年、ラム蒸溜所が誕生しました!

「え、アイラ島でラム?」最初は私も驚きました。


若き蒸溜士の夢──ベン・イングリス

物語の主人公は、アイラ島ブルックラディで育った一人の青年、ベン・イングリス(Ben Inglis)。

子どもの頃、ベンはポートシャーロットとブルックラディで育ち、蒸溜所の古い樽によじ登ったり、窓から中を覗き込んだりして過ごしました。


蒸溜所は騒がしくて、独特の匂いがして、好奇心をかき立てる場所だった──彼はそう振り返ります。

ウイスキーの聖地で育ち、蒸溜という営みに自然と魅了されていったベン。
でも、成人したとき、彼が選んだのはウイスキーではなく、ラムでした。

最初はスパイスドラムや甘いミキサーから始まり、やがて熟成ラムやピュアラムの世界に没頭していきました。

産地、スチルの種類、原材料、造り手の哲学──ラムの世界の多様性に心を奪われたベンは、20代前半で決意します。

「アイラ島で、ラム蒸溜所を開く」

でも、若い蒸溜士には資金も設備もない。
夢は夢のままでした。


運命の出会い──ヴィンテージモルトウイスキー社

そんなとき、運命が動きます。

グラスゴーを拠点とする独立ボトラー、ヴィンテージモルトウイスキー社(Vintage Malt Whisky Company)のアンドリュー・クルーク氏が、アイラ島ポートエレンの古いレモネード工場を取得したのです。

「ここで何かウイスキーを造れないか」──そう考えていたアンドリュー氏のもとに、若き蒸溜士ベン・イングリスが紹介されました。

初めての会合で、ベンは夢を語ります。

「伝統的な手法で、アイラ島初のラムを造りたい」

アンドリュー氏は、このアイデアに惹かれました。
ウイスキーの島で、誰もやったことのない挑戦。
若き情熱と、老舗ボトラーの経験と資本。

「これは、何か新しいものが生まれる」

こうして、アイララム蒸溜所の物語が始まりました。


レモネード工場からの再生──100万ポンドの投資

舞台となったのは、ポートエレンにあるヘイスティ・レモネード工場の跡地。

1955年、工場を設立。
アイラ島にソフトドリンク製造工場がなかった時代、地元商店の悩みを解決し、近隣の島々にも出荷する地域産業の成功事例として称されました。

しかし時代は変わり、工場は閉鎖。長い間、廃墟として佇んでいました。

ベンとアンドリュー氏は、この建物に再び命を吹き込むことを決意します。

5年の歳月をかけ、100万ポンド以上を投資して、丁寧に改修。
工事を担当したのは、創業者の孫の建設会社。
祖父が築いた誇りを、新しい形で蘇らせる──そんな想いが、この場所に宿っています。

建物の元の外観はそのままに、内部にはカリブ海の伝統的な蒸溜所にインスパイアされた特別な銅製の蒸溜器を設置。ベンが長年夢見た、英国のどこにもない独自の設備です。

そして2022年1月、アイララム蒸溜所がついに稼働しました。


バレルエイジド──アイラ島の魂を纏ったラム

ベンは語ります。
「最初のホワイトラムをリリースしたとき、人々は楽しんでくれた。でも、もっとアイラ島らしさを求めていた」

アイラ島で最も人気のあるウイスキーは、スモーキーで力強いピーテッドモルト
ならば、ラムにもその魂を宿せないか?

そこでベンが挑んだのが、アイラウイスキー樽での熟成

カリラ蒸溜所ブナハーブン蒸溜所の、ヘビーピーテッドウイスキー樽──。
その樽の中で、ラムはアイラ島の記憶を吸い込んでいきます。

【公式テイスティングコメント】

 香りは軽やかなスモークにグリーンバナナ、そしてなめし革。口に含むとバニラのような甘みに潮キャラメルのアクセント、スモークフレーバーにエステリーなトロピカルフルーツも感じられ、海辺の潮風や薬品のような風味が味わいをより複雑にしています。


未来への熟成──まだ見ぬ3年、5年、10年

アンドリュー氏は言います。
「今、私たちが造ったラムの90%は、まだボトリングされていない」

樽の中で静かに眠る、未来のラム。
3年後、5年後、10年後──アイラ島の気候が、どんな変化をもたらすのか。

ベンもまた、長期熟成のプロジェクトに情熱を注いでいます。
長期熟成ラム酒としてリリースされるのか、それとも、もっと早い熟成のピークなのか・・・!

とても楽しみですね!


若き蒸溜士の夢が、現実になるまで

ブルックラディの樽に登っていた少年が、
ラムに恋をした青年が、
夢を語り続けた蒸溜士が、

ついにアイラ島で、自分のラムを造りました。
ウイスキーの聖地で生まれたラムが、新しい歴史を刻んでいます。


リトルハピネスで、ベンの夢を味わう

もちろん、リトルハピネスでもアイララム バレルエイジドをお楽しみいただけます

少年の好奇心、青年の情熱、そして大人たちの決断。

一杯のラムの中に、すべてが詰まっている

ウイスキー樽が残したスモーキーな記憶と、
カリブ海から運ばれた糖蜜の甘さが、
アイラ島の潮風と共に、グラスの中で出会います。

これは、ウイスキーの聖地が生み出した、新しいラムの物語


出逢いは必然。Rum&Whiskyの世界へようこそ。

Bar Little Happiness 谷本美香


(参考文献 The Herald Scotland – The story of the first rum distillery on Scotland’s whisky island)