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人の想いを、仕事に変えるということ

2025.5.23
DAWN ver.β

― イマーシブフォートとロボカフェに触れて思ったこと ―

最近、経営の在り方を見直す中で、私自身が感じたことを、備忘録も兼ねて記録しておきたいと思います。

この記事は、お酒の話ではありません。

でも、空間づくりや人との関わりについて何かしら考えている方にとっては、少しでも共感やヒントにつながれば嬉しいです。

■ イマーシブフォートという体験

東京・お台場にあるイマーシブフォート(Immersive Fort Tokyo)は、“観る”を超えて“物語に没入する”体験ができる、体験型演劇のテーマパークです。

演者の方々の演技はまさに、吹き替え映画をリアルで観ているかのような臨場感。声の抑揚、動き、間、視線の流れ——そのすべてが「役を演じている人」ではなく、「そこに生きている人」として存在していました。

日本では「演技に対してお金を払う」文化がまだ限定的で、職業として成立させることは簡単ではありません。

にもかかわらず、この空間では、脚本・空間・演出・IT技術を融合させ、「足を運んで体験したい」と思わせる設計がなされていました。

私はこの場所を訪れて、AIやシステムでは生まれない、“その場の空気をつかむ力”や、“目の前の人に作用する生のニュアンス”が確かに活かされていると感じました。

イマーシブフォートは、そうした“人にしかできない表現”が、きちんと仕組みによって支えられ、成立している場所でもあったのだと思います。

▲ザ・シャーロックホームズ

▲真夜中の晩餐会

■ ロボットカフェが問いかける“働くこと”の意味

もうひとつ印象深かったのが、日本橋にあるロボットカフェ(DAWN ver.β)。ここでは、身体に制限がある方や、かつて引きこもりだった方が、分身ロボットを通じて遠隔で接客を行っています。

私を対応してくれた方も、かつて引きこもりだったそうです。外に出て働くことが難しいなかで、このカフェの存在を知り、「自分にもできるかもしれない」と思って働き始めたと話してくれました。

今まで人と関わること自体が怖くて、自分が社会の中でどう振る舞えばいいのかもわからなかったけれど、ここのお客様はとても優しくて、初めて“社会との接点”を持てた気がして嬉しかったと、穏やかな口調で教えてくれたのが印象的でした。

私はそれを聞いて初めて、ここが単に「身体的に外出できない方」のための場所ではないのだと気づきました。

見えない不安や、生きづらさを抱えている人たちが、自分なりの働き方や役割、存在の価値を見出せる場所でもあるのだと。まさに“働くこと”の意味を、優しく問いかけてくれる空間でした。

そしてこの仕組みは善意に支えられているのではなく、「役割としての仕事」としてきちんと対価が支払われていることにも、強い意義を感じました。

ロボットカフェ(DAWN ver.β)

■ 想いを“体験価値”に変える経営の力

イマーシブフォートもロボットカフェも、共通していたのは「想い」を「体験価値」に変え、それを事業として成立させていた点です。

ただの理想論ではなく、それを現実の設計として落とし込み、空間・人材・技術を使って「伝えたいこと」を丁寧に届けている。

そしてそこには、「働きたい」「届けたい」という個人の意志を受け止め、その意志だけでは成り立たない部分を“仕組み”として支える経営の力がありました。

これは、演技や遠隔接客といった「一見、対価を得にくい営み」を、“体験として届けるに値する”レベルまで高めるためのビジネスデザインだったのだと思います。

■ 小さなBar経営者として思ったこと

私は今、広島で小さなBarをひとりで営んでいます。
規模も構造もまったく違うけれど、こうした事例から学べることは多くあります。特に、「想いやこだわり」を“体験”に変え、それを“事業”として成立させている姿勢には、多くのヒントがあります。

それぞれまったく異なるかたちをしていたけれど、
イマーシブフォートとロボカフェのどちらにも、
“誰かの想い”をきちんと仕組みに変えて届けていた、確かな工夫と現実がありました。

そしてそのことが、今、自分が続けているこの店の営みにも、
かたちは違っても、確かに重なっていたように感じています。