この扉の向こうには、ウイスキーの時間が流れている
2025.5.06
「この扉の向こうには、ウイスキーの時間が流れている」
――リトハピの入り口に込めた、小さな設計の話
リトハピの入口には、とても大きな扉があります。
重たくて、どっしりとした木の質感。
まるでウイスキーの熟成庫に入るときのような、
空気が切り替わる“構え”を感じさせる扉です。
この扉は、ウイスキー熟成庫をイメージして作りました。
本来、熟成庫の扉を開けると、その先には大量のウイスキー樽が静かに並び、
時間をかけて熟成されている空間が広がります。
リトハピでは、そのイメージを樽ではなく、1000本を超えるボトルたちで表現しています。
それぞれのボトルは、異なる土地で生まれ、異なる時間を経て、
今、この場所に集まってくれたものたち。
扉を開けた瞬間、その気配がふわりと伝わるような空間を目指しました。
道路から店内まで、数歩の動きがあります。
少し角度を変えながら、段差を上がっていくその流れが、
まるで“この空間に入っていく準備”をする時間のようで、私は気に入っています。
ガチャっと軽く開く扉ではなく、
“空気ごと動かすような”扉にしたかった。
この店に流れる時間は、街の時間と少しだけ異なっていて、
その境目が、ここにあると思っています。
扉の横には、いびつなハートの小さな窓。
無骨な構えと、すこしだけ愛嬌が残るシルエット。
その組み合わせが、リトハピという空間の“入口の気配”です。
もし、この扉の前で立ち止まってしまうことがあっても。
もし「ちょっと入りにくいな」と思われたとしても。
それでも大丈夫です。
この扉の向こうには、
すこしずつ、静かに満ちていくウイスキーの時間が流れています。
この設計の背景や、他の空間についても、こちらで綴っています。
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