お問い合わせはこちら

いびつなハートの窓が、この場所の最初の“好き”でした

2025.5.06

 「いびつなハートの窓が、この場所の最初の”好き”でした」

お店の外から、ひっそりと顔を出す、小さなハートの窓。
その形に惹かれて足を止め、「この窓が気になって…」と扉を開けてくださる方もいらっしゃいます。
そんな言葉をいただくたびに、少し照れくさく、でもどこかうれしい気持ちになります。

けれどあれは、ただの装飾ではありません。
24歳のときの私が、迷いなく差し出した「これが好きです」という輪郭でした。

私は22歳で創業し、約2年後にこの場所へ移りました。
新しい空間をつくると決めたとき、真っ先に思い浮かんだのが、この“いびつなハートの窓”でした。

昔から、ハートのかたちに惹かれていました。
左右対称で整ったものよりも、
少し歪で、不器用で、でもどこか愛おしい──そんな形に心が動いていたのです。

ラフを描いて大工さんに渡し、角度や丸みを何度も調整していただきながら、
その手描きの線は、窓のかたちとして木にくり抜かれていきました。
その様子を見つめていた時間は、今でもはっきりと心に残っています。

当時、施工をお願いしていた業者さんが途中でいなくなってしまい、
しばらく現場は止まったままでした。

それでも、この場所への気持ちは不思議と色褪せず、
次の業者さんが入ってからは、私は毎日のように現場へ通い、
細かな調整をひとつひとつ、大工さんに伝え続けました。

「この照明は、少しだけ位置を変えたいです」
「ここの角度を、もう少し柔らかくできますか」
「ハートの丸みで外からはお客様の顔が見えないように・・・」

そうして、この窓が生まれました。

完成された形ではありませんが、自分にとってはしっくりとくるものでした。
まっすぐだったあの頃の感性が、空間の一角にそのまま息づいています。

今では、この窓は、お店の空気を静かに支えてくれています。
誰かの目に留まり、誰かの入り口になってくれることがある。

それは今思えば、とても静かで、誇らしいことです。

言葉にならない日もあります。
でも、この窓を見つめると、
たしかに“ここから始まった”という輪郭が、そっと胸の奥に戻ってきます。


この設計の背景や、他の空間についても、こちらで綴っています。
▶︎ 特集|空間に込めた、静かな哲学