【後編】静かな納得と、小さな幸せ
2025.5.08
―― 一人で続けることを選んだ理由 ――
誰かを頼ることでもなく、誰かを否定することでもなく。
理想を追いかけた末にたどり着いた「ひとりで続ける」という選択。
後編では、現在のリトハピの在り方と、今の私自身の“静かな納得”について綴っています。
そして今、私はひとりでリトハピを運営している。
それは、孤独からでも、誰かへの不信感からでもなかった。
むしろ、理想を追いかけた結果、
「ひとり」という選択に、自然とたどり着いたのだと思う。
理想の形を誰かと共に成し遂げたかったけれど、
それを成立させるビジネススキームを、どれだけ考え、動いても、自分の中に持つことができなかった。
目の前に並ぶボトルには、
それぞれの作り手の想い、愛情、背景が、静かに刻まれている。
ある時、過剰に相手の正解を探さなくても、まるでピースがぴたりとはまるように、
心地よく過ごしてくれる方がいることに、はっきりと気づいた。
心地よい関係は、探し求めるものではなく、自然と重なり合っていくものだった。
その感覚を得たことで、言葉を尽くすことも、相手の感情を先回りすることも、
必ずしも必要ではないと知った。
空間にふさわしい出逢いを生むために、来店導線も、静かに見直していった。
ウイスキーやラム酒という世界を前提に、自然と win-win が成り立つ方へ、そっと届くように。
結果として、かつて社員を雇い、営業していた頃以上の売上を、今ではひとりで、短時間営業でも実現できている。
それはきっと、これまで積み重ねてきた時間や、ともに歩んできた人たちの存在があってこそ、育まれたものだと思う。
あの頃の自己犠牲も、今の在り方も、どちらも、大切な時間だったのだと、今は思える。
かつて、「業界の構造を変える」という、大きな夢を抱いていた。
その夢は、叶わなかった。
けれど、今はそのことすら、すっきりと受け止められている。
ひとつのフェーズを越えたのだと思う。
「本物の納得」というのは、キラキラした奇跡のような出来事ではない。
現実と真正面から向き合い、すべての悩みと葛藤の時間を経て、静かに降りてくる感覚なのだと思う。
3本の文章を通して、リトハピという場所の“歩みと輪郭”を綴りました。
よろしければ、3部作のまとめページから順にご覧ください。
▶︎ 特集|リトハピという場所ができるまで
*写真は、アフリカのガーナを訪れた際に立ち寄ったケープ・コースト城での一枚です。
かつて多くの命が行き場を失い、声を奪われたその場所に、
誰かの手でそっと置かれたハートの花飾りがありました。失われたものに目を向けながら、
それでも未来に何かを残そうとする意志。
この場所の静けさには、ただの悲しみではない、「受け継ぐ」という祈りが宿っていたように思います。